眩しいひとよ、おめでとう



『あ、なまえ? 急にごめんな。や、ふつーに声聞きたかったってのもあんだけど、白福になまえのメアド教えてーって言われてさ。さっき教えた!』


ぼっくんからの電話でそんな事後報告を受け、白福さんから【木兎生誕ドッキリ企画】に誘われたのが先週のこと。

企画概要は超簡単。白福さんから制服を借り梟谷生に扮した私が、体育館にそっと現れ部活を見る。それだけ。すぐ気付くか気付かないかはぼっくんにお任せするようで、ドッキリ、というにはあまりにインパクトに欠ける。だってメインがまさかの私。でも梟谷にとってはむしろ、これ以上ないくらいのサプライズになるらしかった。白福さんいわく“木兎がにやけながら電話してんの、100パーみょうじさん相手だから大丈夫だよー”。確かにぼっくんの声色は、電話の時も会った時も弾んでいる。真偽の程はわからないけど、そうだったら嬉しいなあ。


13時前に梟谷の校門で。
白福さんとそう約束し、迎えた当日9月20日。悩みに悩んで買ったプレゼントをカバンに入れて向かった先、梟谷学園高校の校門で、彼女は待ってくれていた。


「わざわざありがとねー」
「こちらこそ。誘ってくれてありがと」
「木兎とどう? 順調?」
「うん。良く電話くれる」
「よかったぁ」


制服が入った紙袋を受け取って、近くのコンビニでぱぱっと着替える。再び梟谷へ戻り、白福さんの後に続いて体育館へ踏み入った。

運動部の空気感っていうのは独特だ。掛け声も、スパイク音もスキール音も足音も、鼓膜を揺する息遣いさえ胸の奥を掻き立てる。もちろん音駒もそうだけど、なんだか心が高揚する。慣れない制服を着ているからか、初めて来た高校だからか。それともコートの中で、いつだって目を引く愛しい人が楽しそうにしているからか。たぶん全部なんだろう。幸せは、いろんなものが折り重なって生まれてく。


「来てくれてありがと。この辺は安全だと思うけど、流れ玉飛んでくるから気を付けてね。何かあったらすぐ呼んで」


ボトルを抱えた雀田さんが笑いかけてくれたので、私も笑って「ありがとう」って手を振った。ああこの感じ、好きだなあ。まだ一ヶ月くらいしか経っていないのに、もう夏合宿が懐かしい。あれから毎日、皆は変わらずバレーボールに全力投球。今目前に広がっているこの光景が変わり映えのない日常だろうけど、私にとってはまるで夢と同等だ。

あんまり見てたらバレちゃうかな。

壁に背中を預けつつ、ぼっくんのキラキラ輝く勇姿を目に焼き付ける。瞼を閉じればすぐに浮かんでくるくらい、ゆっくりじっくり堪能する。けれど穏やかなインプット時間は、案外すぐに終わりを迎えた。

休憩に入るタイミングで振り向いた彼と一瞬目が合い、フリーズを経て二度見。真ん丸く見開かれた瞳は驚いていて、体育館に響くくらい、それはそれは大きな声で私の名前が叫ばれた。


「なまえ!? は!? えっ、なん、えっ、マジ!?!?」
「ぷふっ」


あまりの良い戸惑いっぷりに、思わず全部員が拭き出したのはご愛嬌。くすくす浮き立つ笑い声が天井高くで飽和する。かくいう私も例外ではない。どころか皆以上に数億万倍嬉しくって泣きそうだ。まさかひと目で気付いてくれて、一目散に駆け寄って来て、なんにも気にせずその両腕でぎゅっと抱き込んでくれるだなんて。「すっげえ会いたかった!!」なんて、もう―――。

制汗剤と汗のにおい、ぼっくんらしい高体温に包まれながら、広い背中をぽすぽす叩く。全然宥められてくれないまま「なんで!?」って、子どもみたいにはしゃぐ笑顔に教えてあげる。

伝えに来たんだよ。お誕生日おめでとう、って。


fin.
/210920



<< back