「ん?」
「あれ」
「?」
夜久の指が示す先。窓から見下ろす校門前で揺れた白に瞳を丸めたなまえは、勢いよく立ち上がった。慌ただしくイスをしまい、スクールバッグを引っ掛ける。既に意識は外へと泳ぎ、正に心ここにあらず。それでも「ありがと!また明日ね」と別れの挨拶を忘れずパタパタ走っていった小さな背中を、夜久は心底微笑ましく見送った。二人が晴れてくっついた夏の合同合宿以後、一応何でも話す仲であるみょうじ本人からしかしそういった話が全く挙がらず、こっそり心配していた親心がふんわり落ち着く。
一方、階段を駆け下りローファーへ履き替えたなまえは、ブレザーの裾をはためかせながら校門へと急いでいた。相変わらずの万年帰宅部。たまたま短期的に請け負った男子バレー部のマネージャー役を立派に勤め上げた経験があるとはいえ、体力など端からないに等しい。
当然上がった息を校門手前で宥めすかす。さすがにあんまりみっともない姿は見せられない。散らかった前髪を撫で付け、逸る気持ちを胸に抱き、門を越えた向こう側で待っているだろう白銀へ歩み寄る。
「ぼっくん」
「なまえ!」
チカチカ、キラキラ。振り向いた黄金色が瞬時に輝き、嬉しさを前面に押し出した明るい笑みが心を占める。会うのはちょっと久しぶりだけれど、依然として湧き立つ愛しさに頬が緩む。
木兎は塀に預けていた背中を浮かせ「今メールしようとしてた」と、手中の携帯をポケットへしまった。
「急にごめんな?」
「ううん、大丈夫だよ。部活はお休み?」
「そ! なんか照明点検?で使えねーんだって」
「そうなんだ。バレー出来ないのは残念だろうけど、来てくれてありがと。会えて嬉しい」
「へへ、俺も」
照れくさそうに首裏を掻いた大きな手が、なまえの細腕をゆるりと辿る。自然にすくわれた右手。指の間を埋める熱。ごつごつと節張った感触。目線に合わせて屈むやんちゃな双眼。「な、ちょっとデートしようぜ」って無邪気な声が、鼓膜どころか全神経をぐわっと掻き立てる。ああ好きだなって、過ぎ去ったはずの暑い夏がかえってくる。
背中へ降りかかる視線を感じながら――なんせ180cmをゆうに超えた男。それも他校の灰色ブレザーだ。目立たないわけがない――嬉しさ半分恥ずかしさ半分に頷いたなまえは繋いだ手を離さぬよう、ぎゅうっとしっかり握り返した。
fin.