まだ育ち盛り



 付き合い始めてから、時々一緒にお昼を食べるようになった。本当に時々、月に二回か三回くらい。
 周りには知られていない。私の友達にも、岩泉くんの部活仲間にも、及川くんにも。内緒にしているわけではないのだけれど、報告するようなことでもないような気がするし、お互いなんとなく恥ずかしかった。私の想いは岩泉くんだけが知っていればよくて、岩泉くんもたぶんそうだった。



 いつものように授業を聞き流しつつグラウンドを見下ろす。体育真っ只中の元気な岩泉くんが見えて、不意に目が合って微笑み合う。
 恋って不思議。たったこれだけのことで、私の世界は鮮やかに色付いていく。空が青くて、雲は白い。そんな当たり前と同様に、岩泉くんは眩しい。



『放課後あいてるか?』


 そんなメールが届いたのは、もうすぐ終礼が終わる頃だった。先生に見付からないよう、机の中でこっそり快い返事を送る。すぐに返ってきた『そっち行くわ』の一文に心臓が跳ねた。
 なんだろう。急にどうしたんだろう。そういえば今日は部活禁止の月曜だけれど、もしかして、もしかするのかな。

 号令に合わせて立ち上がったバイト組が颯爽と帰る中、のんびり駄弁っている帰宅組を横目に岩泉くんを待つ。ほどなくして「みょうじ」と聞こえた呼び声に、背筋が伸びた。やっぱり振り向かなくても分かる、少しザラついたぶっきらぼうな男の子の声。
 立ち上がりざま、手に取ったカバンを肩にかけて駆け寄ると「あんま急ぐと危ねえぞ」と、笑ってくれた。私の好きな笑い方だった。


「何かあったの?」
「いや、丁度及川が呼び出されてっから一緒に帰ろうと思ってよ」
「あ、そうなんだ。先に帰って怒られない?」
「怒られねえよ。約束してるわけじゃねえし」
「バレー部の皆はいいの?」
「あー……」
「?」


 岩泉くんの視線が斜め上へと泳いでいく。これはまずいことを聞いてしまったかもしれない。めずらしく言いづらそうな様子なので、前言を撤回する手段を探す。けれど私が見付けるよりも早く、彼の声が喧騒の頭上を流れていった。真正面にいて、聞こえるか聞こえないかくらいの声。


「彼女、優先していいって言われた」


 かのじょ、彼女。そうだ、私、岩泉くんの彼女なんだ。
 改めて意識すると恥ずかしさが湧いて、顔が熱を帯びる。指先だって、ほら、こんなに熱い。


「わりぃ。なんかあいつら知ってて」
「や、私は全然、その……嬉しいよ」


 カバンの持ち手を握りながら笑ってみせる。動揺を隠すことは苦手だけれど不得手じゃない。
 それでも、ものめずらしげな彼の視線に耐えきれるだけの強さはなくて「ほら、帰ろ」と、逃げるように腕を引っ張った。


fin.




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