あさき夢見し、夜に乞う



サイドキックを全員定時で帰らせた午後六時。ノックもなく事務所の扉が開いた。忘れ物か来客か。パソコンモニターから視線を移せば、見覚えのある真紅の羽根が明るい髪と共に覗いた。私を見つけるなりゴーグルを持ち上げ「一人なんすね」と、とことこ歩み寄ってくる。羽根がなければヒヨコみたいで可愛いところ、今日は随分と綺麗に生え揃っていた。残念。あんまり可愛くない。


「お疲れ様です、なまえさん」
「はいお疲れ。事務所に来るなんて珍しいね? ホークス」
「そうですか? 俺の中では結構会ってる印象なんですけど」
「殆ど現場でしょ」
「そう言われれば。凄い駆り出されてますもんね」
「ほんと、水辺専門だっつってんのに呼ばれんのまじ異常」
「ははっ。まあそんだけ優秀ってことですよ」
「だといいけど。で? 何か用?」
「はい。もしこの後予定なかったらなんですけど」


事務机を挟んだ向かい側。ごそごそポケットを漁る姿を視界に留めつつ、報告データを保存する。間もなく出てきたのは、定期券サイズの四角い青色。


「水族館、行きません?」
「はい?」
「あれ、聞こえませんでした? 水族館。行きましょうよ」


帰りはお送りしますんで。そう人懐っこく笑ったホークスは、照明を透かす二枚のクリアチケットをひらひら振った。



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