午前二時の懸想



「肩も冷えてる」


目と鼻の先。吐息さえ触れてしまえるすぐそこで小さく呟いた人使は、しかし唇を合わせることなく、言葉通り冷えていたらしい私の肩を易々引っ込めた片腕で抱いた。

ちょっと期待したのに、残念。

タオルケット越しの温もりが、皮膚の下へなめらかに馴染む。


故意的なのか、それともいつものように自ら留めて嚥下したのか。もし後者であるなら、やはり均衡を保つのは私の役目だと思うわけだけれど、この憶測が合っている確率は果たしてどれくらいだろう。間違っても器用な男ではない。ただ、時折私をどきりとさせる悪戯な笑みが、全く浮かばないとも言えない。


「さあ、もうちょっと寝よ」


思考が終息する半歩手前。とんとんと肩裏をあやした大きな手が項を伝ったかと思うと、そのまま優しく引き寄せられた。自然と塞がった視界は必然真っ暗。大人しく瞼を閉じて、額を擦り付ける。鼓膜を休め、足を絡め、腕を回し。そうして彼の心音と拍動を許容する内、私の鼓動が重なった頃。間抜けなあくびを従えてのんびりやって来た微睡みは、綿菓子のようにふわふわしていた。


今、何時だったのかなあ。


「ねえ人使」
「なに?」
「おやすみ」
「ん。おやすみ、なまえ」


明日はキスで起こしてね。

舌裏で反芻した願いは音にならず、ただ小さく開いた唇から洩れた吐息だけが、人使の胸へ沈んでいった。



おやすみ おやすみ
残夢で逢おう
愛し君よ


fin.




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