静謐が棲む夜



「ごめん、起こしたな」
「全然。そんな神経過敏じゃないの知ってるでしょ?」
「まあ……。目ぇ覚めたの?」
「うん」
「……」


逡巡するように黙った人使の腕が離れる。もそもそ枕元を探り、持ち上げたのは白いリモコン。発光した画面に眉を寄せた彼の指が動く。ピ、と機械音が鳴って少し。ごうごう頑張っていた冷房が、静かに凪いだ。


「消したら暑くなると思うけど」
「や、温度上げただけだから大丈夫」
「寒かった?」
「俺は全然。けど――」


リモコンを置いて、緩やかに戻ってきた手が寄せられる。指の背でするする目元を擦られ、あまりのくすぐったさに弛んだ頬は

「あんた冷えすぎ」

なんて、随分心配性な手のひらへ包まれた。


こうして直に触れていると、確かにいつもよりは差があるように感じられる。でも、どうだろう。正直あんまり分からない。だって普段から、人使は私より温かい。私よりたくさんの優しさを秘めていて、私より多くの灯りを宿していて、私以上に私を愛してくれる。とても大切にしてくれる。いつだってそう。決して表立つことはないけれど、それでも密やかに高鳴る鼓動を汲み取ることは、どんなに音が溢れた空間でだって難しくない。静謐が棲む夜はもちろん、尚のこと。


「ちょっとは自衛しなよ。すぐ風邪引くんだから」
「はぁーい」
「あと、せめて半袖着て」


輪郭をなぞる指先が、やっと手に入れた宝物を愛でるように、そうっと顎を掬っていく。私の反応を窺いながら、衣擦れの音を連れて目前に迫った瞳の奥の奥。

じわりと滲んだ、熱が透ける。



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