「みょうじ」
抑揚の感じられない穏やかな低音が一直線に空気を裂いた。瞼を押し上げ、ついでに顔を向ける。斜め上からこちらを見下ろす、静かなオッドアイ。
交わった視線に言葉はなく、けれど逸らされることもなく。「ちょっと良いか」と誘われるまま教室を出た。
「急にわりぃ」
「ううん。丁度暇だったから全然」
「そうか。なら良かった」
轟くんはハイツアライアンスまでの帰路から少しだけ脇へ逸れ、茂みを越えた先の木陰へ座った。知ってか知らずか。まあおそらく後者だろうけれど、私がいつも昼寝をしている場所。敷地内で飼っているのだろう猫がたまにやってくる癒しスポットだった。
数秒躊躇って、結局人一人分空けた隣へ落ち着く。距離感が分からない。
轟くんのことは随分昔から知っているけれど、きっと彼は私のことなど覚えていないだろう。彼にとってあの頃は、いっそ消し去ってしまいたいほど嫌なものばかりが詰まっている。忘れていても無理はなかった。