剥がす理想



「えっと、それ、……告白です?」


私が淡然としているからか。ホークスはたっぷり数秒固まったのち、戸惑うように目を泳がせた。

告白、なんてまあ随分ストレートに言うものだ。きっと、もっと上手な言葉を探したけれど見付からなかったのだろう。適当に流す方が簡単だった筈なのにそうしなかったのは、それだけ私の言葉ひとつを大事に咀嚼しているから。なんとも可笑しくてくすぐったい。


試しに答えないままでいれば、やがて戻ってきた視線とかち合った。どうにかこうにか浮かべられた愛想笑いは、けれど照れくさそうにも見える。たぶん頭の中は大混乱。なんせ敏く賢い彼のこと、いろんなパターンと言葉がぐるぐる巡っているに違いない。

大きく動揺している瞳に孤独の姿は見当たらず、澄まし顔の私だけが映されている。繋ぎとめられたかな。せめて首の薄皮くらいは、補えたかな。


「意外と自意識過剰だね」
「え゙」
「まあ好きに受け取ってよ。慰めでも励ましでも告白でも」
「えぇー……」


困ったなって苦笑に笑う。どんなに望まれたって明言はしない。だって彼が飛べなくなる。私が吐いたあやふやは、今を生きるための浮力にして欲しい。要らなければ振り払ってくれていい。捨てていい。全部君が、都合のいいものだけを選び抜いてくれればいい。

返答に窮したホークスの片手をすくって引いた。


「さ、帰ろ」


大水槽を横切って通路を抜ければもう出口。といっても残念ながら開いていないので、入ってきた裏口から退出するべく折り返す。クラゲコーナーをゆったり過ぎ、丸いガラスの内で微睡む熱帯魚達にさようなら。

片手はずっと繋いだまま。易々握り返してくれた、彼に独占されたまま。大きなぬるい体温が、海みたいで心地いい。






「なまえさん」
「?」


裏口を開ける一歩手前。手を離しかけたその瞬間。立ち止まった彼から降ってきた声は、月夜の湖畔みたいに静かで穏やかだった。


「なまえさん家まで夜空の旅、しません?」


悪戯な笑み、やわい目元、さらさら凪いだ優しい眼差し。彼が彼であることが、私の正しさを証明する。彼のために使った時間も探した言葉も紡いだ音も、全部間違っていなかったのだと肯定する。


「エスコートしてくれる?」
「もちろん。お姫様抱っこなんかどうです?」
「新鮮でいいけど、落とさない?」
「ちょっと誰に言ってんですか」


無骨な指に頬をつつかれ、笑い混じりに謝った。

ホークス直々の夜空ツアー。響きからして贅沢で、パパラッチに追い回される心配は薄い。おまけにただの気まぐれってわけでもない。私が知る水の世界は、水族館で味わった。だから今度は彼が知る、空の世界を教えてくれるつもりだろう。そうしてそれを、私と共有したがっている。これからも地上にいるために。これから共に在るために。だから断る理由なんて、そんなの選ばない。



ありのままで羽ばたいて、
あるがままに泳いでいよう。
明日はきっと、うつくしい。


fin.
210927




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