01

「失礼します」と聞こえた声に、すっと意識をさらわれた。扉の方へ顔を向ければ、頭に思い描いた通りの落ち着いた瞳とかち合う。「あ、お疲れ様です」と会釈をした赤葦は、私と同じく、部室の鍵を返しに来たようだった。


「お疲れさま。レギュラーなのに鍵係?」
「係というか、一番最後だったので」
「また木兎に付き合わされてたの?」
「そんなところです」
「頑張るねー。あいつ底無しでしょ」
「まあ疲れますね」
「でも楽しいから、つい残っちゃう?」
「……よくご存知で」


図星を突かれたことが意外だったのか。少し瞳を見開いた赤葦は、ふ、と口角を緩めて笑った。この顔が見れただけで、今日という日がとってもいい一日だったように感じる私は、なんて単純なのか。

ずるいなあ。本当にかっこよくてずるい。「駅まで送りますよ」なんて言われたら、頷くしかない。



担任にさようならをし、赤葦と共に職員室を出る。窓の外はすっかり暗く、蛍光灯がなんだか眩しい。閑散とした廊下に、二人分の足音だけが穏やかに反響する。歩幅を合わせてくれるのは、きっと無意識なんだろう。

誰に対しても分け隔てないこの男を知ったのは、つい最近。腐れ縁である木兎へ課題プリントを届けに行った時、とても自慢気に紹介されたのだ。『俺の赤葦!』とドヤ顔で胸を張る木兎を『違います』とすっぱりぶった切った彼に笑ってしまったことは、記憶に新しかった。


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