16

熱い頬を片手で冷やす。ノイズ混じりに届く音は、品良く笑っていた。きっとあの涼やかな瞳を細めているのだろう。変わらず携帯越しなのに、すぐそこにいるかのように浮かぶ、彼の姿がなんともくすぐったい。

何を返せばいいのか分からず、何も言えない私の代わり。『すみません。つい新鮮で』と区切ってくれた赤葦は幾分ほぐれた声色で、本題を切り出した。


『話戻しますけど、今日の部活、十二時には終わる予定で』
「うん」
『もしみょうじさんさえよかったら、会えませんか?』
「……うん?」
『最寄り駅待ち合わせでもいいですし、住所を送ってもらえれば家まで迎えに行きます。もちろん用事があるなら出直します』


全く予想していなかったお誘いに、ぱちぱち瞼が上下した。うそでしょう?赤葦と会える?休日に?

速まるばかりの鼓動がどくどく暴れだし、外の音を覆ってく。まるで鼓膜に心臓が棲んでいるみたい。そんな中でも不思議なもので、彼の声は真っ直ぐ届く。落ち着いていて聡明で、たとえば浅瀬を歩む水流のようになめらかだ。


『みょうじさん?』
「……大丈夫。丁度今日、何もないの。会おう」
『有難うございます』
「私の方こそ、誘ってくれて有難う」


嬉しい。

つい口からこぼれ出た言葉にハッとして、けれど赤葦が『俺も嬉しいです』と言葉通りの声で微笑んでくれたので、赤っ恥をかかずに済んだ。

待ち合わせ場所は私の家の最寄り駅。学校まで行くよって申し出たけど、バレー部員にはどうも見られたくないらしい。まあそりゃそうだ。何か用事があるだけかもしれない。変な噂が立つのは不本意だろうと頷き、駅前のファミレスでご飯を食べる約束をして、終話した。

さあ、何を着ようかな。とりあえず歯を磨いて顔を洗って、それからちょっとメイクしよう。


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