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画面を開いてびっくり。下部に表示されてる名前はさっき目にした宛先で、慌てて枕から跳ね起きた。みっともない声にならないよう咳払いで喉を整え、応答ボタンをワンプッシュ。開口一番『突然すみません』と謝った彼の声は、機械越しだからだろう。いつもと違った響きを含んでいた。


『今、少しだけいいですか?』
「うん。何かあったの?」
『……』
「赤葦?」
『……いえ、すみません。実は今日部活が、』
「待って。続きも聞きたいけど、さっきの何?」
『大したことじゃないですよ』
「そう? 気になるんだけど」
『あー……』


沈黙が電波を包む。

本当に言いたくないことだったら別にいい。思ったことはなんでもぶつけて欲しいけど、心内を無理やり引き摺り出したいわけではない。ただ以前のように、また、聞きたいことを躊躇っているなら。吐き出したいことを無理やり呑み込んでいるのなら。そんな懸念が、どうしようもなく胸を揺らした。だから待つ。遠慮がちな、彼の言葉を。




『声……なんですけど』


ぽつり。やがて呟くようにこぼした赤葦は、携帯の向こうで苦笑した。静謐に乗って届く吐息が鼓膜を占める。


『ちょっと掠れてる感じ、良いなって思って』
「……」
『寝起きですよね。みょうじさん』
「っ、」


ああ、そっち。そっちなんだね。嬉しいような、恥ずかしいような。聞いて良かったような、ダメだったような。

まるで瞬間湯沸かし器。お腹の底から溢れた熱が沸騰してく。愛しさだとか、そんな柔らかなものじゃない。濁流のごとく渦を巻く、確かな情動そのものだった。


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