不知火ホタルはアカデミーでも評判の優等生であった。
個性的な忍の卵達の中でひどく大人びており、またそれをひけらかすことなく他の同級生達とうまく付き合っている。
教師の代わりに生徒同士の喧嘩の仲裁に入り、声を掛けるなどといった面倒見の良さもあった。
『不知火ホタルですか?アカデミーの成績も良いし、また穏やかな気性ですから問題行動を起こすようなこともなかったですね。ナルトやキバみたいな悪戯小僧もいましたが、恥ずかしい話、彼女のおかげで教室の雰囲気も良かったです』
アカデミーの教師が語る。
『…………ただ、空気を読み過ぎるというか……。これは教師としての長年の勘ですが、全て計算尽くで行動をしているような印象もありましたね。あのうちはイタチだって子供らしからぬ聡明さがありましたが、周囲の生徒達との衝突は多かったんです。それを思うともしかしたら彼女は【そういった才能】を持っているのかもしれません』
よく言えば周囲を味方につける、悪く言えば傀儡にする才能。
しかし一見人畜無害そうな少女の、その根本的な性質を理解する前に不知火ホタルはアカデミーを卒業してしまった。
◇
何をふざけたことを言ってるんだと思われるかと思うが、私こと不知火ホタルには前世の記憶がある。
ぼんやりとでしか覚えていないが、こことは違う世界で生きてきたことは確かだった。
おまけに新しく生まれ落ちた世界は前世で流行っていた漫画の世界で、弟から「主人公のナルトの中に九尾がいて〜」だとか「サスケは後々木の葉を出る」だとか聞いていたもののすっかすかな知識しかない。
何かこう……、ナルトの中に九尾が封印されていて、何やかんや忍がいっぱい出てきて、サスケ?って子が里を裏切るけど、最後はハッピーエンドになる、みたいなレベルだ。
そしてそんな自分の今生の両親も当たり前のように忍であった。
───ただこの両親、存外出来た人物で。
おおらかで少し抜けたところがある父と、優しくて面倒見の良い母。
血の繋がった両親に対してどこかよそよそしくしてしまう私に愛情をもって接してくれた。
普通、中身に成人した記憶を持っている子供が生まれたら気持ち悪いよね?
本当だったら普通の子が生まれてくるはずだったのに、転生した人間が入っているとか嫌だよね?
本人達には隠しているが、やっぱり一緒に暮らしているとボロが出てほんの少し他人行儀になってしまう。
しかしそんな私を朗らかに育ててくれる両親には感謝しかない。
そのため、本当は忍になるつもりはなかったけれど両親の勧め通りアカデミーに通い、幼い同級生達とうまく付き合いながら優等生然とした態度で授業を受けた。
『ホタルは本当によく出来た子ね。しっかりしているし物覚えも良いし……』
『でもな、ホタル。ちょっとくらい子供らしく羽目を外したって良いんだからな?ホタルはまだ下忍じゃなく、アカデミー生なんだから』
そう言ってくれる両親達は本当に優しい。
私がもし大人になって、転生する前の年齢に追いついて、中身と外見の乖離がなくなったら、遠慮なくいっぱい話したい。
今はまだ子供だから気味悪がられてしまうだろうけど、それが本当に待ち遠しかった。
けれどそんな彼らは私がアカデミー在学中、任務により亡くなってしまった。
私は結局、両親の前で『良い子』の仮面を剥がすことはなかった。
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