班分けが終わり、午後からは担当上忍の紹介となった。
 説明会の教室に上忍の方がやって来て各班の子達を連れて行く。ヒナタちゃんも綺麗な女性の上忍に呼ばれて、教室から出て行ってしまった。

 ぽつりぽつりと人がいなくなり、最後に残ったのは第七班である私達だけ。いつまで経っても来ない担当上忍にみんなイライラしてきている。
 
 ………私達の先生、集合時間を間違えていたりしないだろうか。いや、でも忍同士がそんなポカミスするかな……。

 けれど二時間以上待っても来ないのは流石におかしい。

 とりあえずアカデミーの職員室にいるだろうイルカ先生に担当上忍が来ないことを伝えようと席を立った。
 無いとは思うが、もしかしたら本当に集合時間の伝達ミスが起きているかもしれないし。

「ん?どうしたんだってばよ」
「先生が来るの、ちょっと遅すぎるじゃない?何かあったかもしれないから、職員室にいるイルカ先生に話を聞いてくるよ」
「あ、悪いわね……。私も行こうか?」

 サクラちゃんがそう言ってくれるが、イルカ先生にちょっと聞いてくるだけなので一人でも大丈夫だ。
 彼女はナルト君やサスケ君の話を抜きにすると、割と親切だししっかりしている。

 代わりに担当上忍の先生と入れ違いになってしまったら待っていてほしいと伝え、私は教室を出た。




 ◇




 担当上忍って誰なんだろ……。
 アカデミーの廊下を歩きながらふと考える。

 あの主人公であるナルト君の担当上忍なのだ。きっと個性的であるに違いない。
 前世の弟の話を適当に聞いていたためナルト君やサスケ君のことしか分からない。あれ、でも何となくサクラちゃんは聞いたことがあるような……。あと、何だっけ。
 カ……カ……カなんとかさん……。主要人物にそんなような名前な人がいるのをぼんやりと覚えていた。

 するとその時、廊下の向かい側から誰か歩いてくるのが見えた。
 銀髪で口元を隠した気怠そうな人だ。

 しかしあんな先生、アカデミーにはいない。
 もしかしたら第七班の担当上忍かもしれないと思い、目の前の人に声をかけた。

「すみません。第七班の担当上忍の方でしょうか?」
「………キミは?」

 ここで名乗らないと失礼だろうなと思う気持ちと、見るからに怪しそうな人に名前を教えるのは何か嫌だという気持ちが相反する。
 アカデミーにいるということは得体の知れた木の葉の忍であるのは確かだ。けれど怪しすぎる外見に戸惑ってしまう。

 これ、罠じゃないよね?下忍になるなら知りもしない人にほいほい名前を教えるなとか後から怒られないよね?

 どうしようかと元日本人らしく曖昧に微笑んでいると、タイミング良く廊下の角からイルカ先生が現れた。

「あれ、カカシ先生まだこちらにいらっしゃったんですか?教室で第七班の生徒達が待っていますよ。……ん?ホタルじゃないか。わざわざ迎えに来たのか?」

 イルカ先生の言葉を聞いて、そこでようやく目の前の忍の身元が判明する。
 うんうん、カカシ先生ね。やっぱり担当上忍だったのね。

 怪しすぎて名乗るのを戸惑っていましたという態度を出さず(というか出したら失礼すぎる)誤魔化すようににっこり笑って口を開いた。

「はい。何か事情があると思って来てみたら、カカシ先生と鉢合わせたんです。カカシ先生、第七班に所属することになりました不知火ホタルです。どうぞよろしくお願いします」
「キミ中々良い性格してるね」

 やっぱりあからさま過ぎたと思うが、ここは見逃してほしい。

「カカシ先生、ホタルはアカデミーでも優秀な生徒でしたよ。問題児ばかりの教室をまとめたり、時に教師の補佐もしてくれていたんです。きっと色々フォローしてくれます」

 イルカ先生が善意100%で言ってくれるが違うんだ。

 別に問題児ばかりの教室をまとめていたわけでなく、単に小さい子達が騒がしくしているのを元大人として見逃せずちょっと注意しただけ。それに授業が遅れると放課後延長で授業したりするかもしれないのが面倒くさいと思ったのだ。

 教師の補佐だってイルカ先生が大袈裟に話しているだけで、そんな大層なものではない。たまに子供達のテンション高い会話についていけなくて困っていたところ、通りかかった教師に次の授業の準備を買って出て逃げていただけである。

 「そんなことないですよ」と否定しても「謙虚だなあ」とイルカ先生に笑われてしまう。うーん、勘違いです。



 そして話もそこまでに、イルカ先生と別れて第七班のみんなが待っている教室へ行くことになった。

 前を歩くカカシ先生を見る。
 やっぱりちょっと失礼すぎたかな……。

「カカシ先生」
「ん?」
「あの、さっきはきちんと自己紹介しなくてすみませんでした」

 するとカカシ先生は振り返る。
 じっと見つめてくる先生にたじろいでいると、彼はさっきの私がしたようににっこりと目を細めて言い放った。

「ホタルのそれは計算かい?」
「…………は?」
「ま、その内分かるか。さっきのことは気にしなくていーよ」
「はあ……」

 ………計算?いやいや、計算って何だ!?嫌味!?
 ていうかこの先生、結構良い性格してるぞ!?



 それから教室の扉を開けたカカシ先生の頭上に黒板消しがぽふんと落ちた。そしてイラッとした先生が「お前ら、嫌いだ」と宣言する。

 わざとブービートラップに引っかかったのは、後程がつんと教育的指導をするため油断させようとしているのか、それとも単に性格が悪いのかのどちらかだろう。

 これから起こりうるだろう第七班の将来に、私はひしひしと嫌な予感がした。




 ◇




 見晴らしの良い場所に移動して、各々の自己紹介をすることになった。

「オレははたけカカシって名前だ。好き嫌いをお前らに教える気はない!将来の夢って言われてもなあ………。ま!趣味は色々だ」

 結果名前しか分からないカカシ先生の紹介にずっこけそうになる。
 続いて私達が口を開く。

 ナルト君の自己紹介はほぼラーメンに関することだったが、将来の夢が【火影になる】ことで主人公らしく堂々とそれを宣言した。

 サスケ君は何やら野望があるらしく、うちは一族の復活とある男を殺害するのが目的だそうだ。ここら辺前世の弟が言っていた「サスケは里を裏切る」発言に何か関わっていくのかもしれない。

 それからサクラちゃんは女の子らしくもじもじしながら自己紹介をする。ただし嫌いなものはナルト君だとはっきりと言った。ナルト君、どんまい……!

「じゃ、最後にホタル!」
「はい。ええと、もう知っているかと思うけど不知火ホタルです。好きなものは………」

 しかしそこではっと気付いてしまう。

 私、特にこれといって好きなものも嫌いなものもないかもしれない……。いや、倫理的にアウトなことは基本的に嫌いだけど、自己紹介でそれを言っても「は?何当たり前なこと言ってんの?」と思われるだけだ。

 ここは多少プライベートなことを話した方が無難だろう。でも特になあ……無いんだよなあ。無趣味だし将来の夢とかもまだ無いし………。そう思うとあまりにも中身が空っぽ過ぎて虚しくなってくる。

 いや、それでも嘘でも良いから当たり障りのないことを言っておこう。変な目で見られるよりかマシだ。

 体感0.2秒程悩み、私の口はすらすらと動き出す。

「好きなものは甘いもの、嫌いなものは特になくて、趣味は読書です。将来の夢はまだ無いから、これからじっくり決めていこうと思います」

 それらしいことを言ってみたが何だかぱっとしない自己紹介になってしまったな……。自分がいかにつまらない人間か分かったので今後は趣味とか増やしていきたい。

「よし!自己紹介はそこまでだ。明日から任務やるぞ」

 …………え、任務?下忍昇格試験じゃなくて?いや、試験ないの!?

 ナルト君がそれを聞いて嬉しそうにしているが、反対に私は冷や汗が止まらなかった。






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