やはりというか、下忍昇格試験はあった。

 あの後、カカシ先生の説明によって試験という名のサバイバル演習があることを知った。
 下忍に合格できるのは全卒業生のおよそ三割程。
 吐くほどきつい試験のため朝食を抜くように言われたが、一応レーション(携行食)とか準備しておいた方が良いかな。

 しかしここで懸念が生まれる。
 この段階でチームを組むということは、そのサバイバル演習は一人が脱落すると全員不合格になる一蓮托生型試験かもしれないのだ。

 そしたら他のチームメイトに迷惑かけないよう頑張るしかないわけで、合格したら自動的に下忍になってしまう。

 やだなーー!どうしよう!
 いや、でもこの段階でチーム分けしたのは効率よく試験を進めるためという可能性もあった。なので一概にそうだとも断定できない。

 そうして鬱々とした気持ちになりながらも、サバイバル演習の朝を迎えてしまった。




 ◇




「やー諸君、おはよう!」
「おっそーーーい!!!」

 随分と遅刻してやって来たカカシ先生にみんなが突っ込む。

 また探しにいこうかとも思ったがカカシ先生がどこにいるか分からないし、もしかしたら遅刻癖のある人かもしれないと思い待機していた。

 そしてカカシ先生はサバイバル演習の概要を説明し出す。

「ここにスズが3つある。これをオレから昼までに奪い取ることが課題だ。もし昼までにオレからスズを奪えなかった奴は昼メシ抜き!あの丸太に縛りつけた上に、目の前でオレが弁当を食うから」

 朝メシ食うなってそういうことだったのね……。レーションを持っているため課題中に食べてしまった方が良いかもしれない。

 スズが3つあるということは、必然的に一人は脱落する。

 つまり、一人脱落したら連帯責任で不合格になるような一蓮托生型の試験でなかったことにほっと安堵した。

 なあんだ。良かった。私は受かるつもりないから、スズを取るようなポーズをしているだけで良いのだ。
 それに手加減してくれると思うが、元アカデミー生の私がたった一人でスズを取れるはずない。

 ……………うん?たった一人で………?

 何だか試験の真の目的に気付いてしまいそうになりながらも深く考えることをやめる。

 いつの間にか話が進んでいたようで、そろそろ試験が始まりそうだ。

「じゃ、始めるぞ!………よーい、スタート!!!」

 カカシ先生の声を合図に、私達は一斉に飛び出した。




 ◇




「どうしたもんかな………」

 気絶しているサクラちゃんを前にため息を吐く。

 先程カカシ先生からの幻術で何かとんでもないものを見てしまったらしいサクラちゃんは、あまりの衝撃で気を失っていた。

 あれから身を隠しながら今までの様子を見ていたのだが………。

 ナルト君が影分身を使って飛び掛かるものの、カカシ先生によって軽くいなされ現在木に吊るされている。そしてサクラちゃんは幻術によって気絶させられ、現在サスケ君と先生が交戦中だ。

 それを見る限り、個人でカカシ先生からスズを取るビジョンが全く浮かばない。

「サクラちゃーん、起きてー……」
「…………ううん、ホタル……?ハッ!サスケ君!サスケ君は無事なの!?」
「落ち着いて。さっき見ていたけどサクラちゃんはカカシ先生に幻術を見せられていたの。あとサスケ君は今先生と戦っているよ」
「え!?それじゃあ急いで助けにいかなきゃ!」
「まあ、待って待って」

 今にも飛び出して行きそうなサクラちゃんをなだめる。
 何で止めるのよ!と言いたげな彼女に口を開いた。

「私達、協力し合わない?」
「協力?」
「うん」

 私自身、この試験に受かるつもりはない。
 けれどこのままだと誰もスズを取れずに終わってしまうだろう。それだったら全員で協力し合ってスズを奪い、あとで誰を不合格にするか決めれば良い。
 私はそもそも受かる気がないため、他3人にスズを分配すれば丸く収まるはずだ。

 3人は下忍になれて良し、私は下忍にならずに済む。

 アカデミーに戻れと言われても今回の試験で身の程を知ったと言えば、卒業資格を持って辞めることができる……できる、よね?え、できるよね?

「個人の力でカカシ先生からスズを奪うなんて不可能よ。それなら皆で協力して挑んだ方が効率的だと思う。スズを誰に分配するかは後でじっくり決めれば良いんだから」

 とりあえず情緒が若干不安定なのを隠しながら言えば、サクラちゃんは「それもそうね……」とつぶやく。

「サクラちゃんはナルト君を呼んでくれる?サクラちゃんから言った方がナルト君も喜んで協力してくれるでしょ。多分今頃集合場所の木に吊るされてる」
「じゃあサスケ君は?」
「サスケ君は私から伝えておく。あ、大丈夫だよ。私、サスケ君のこと狙ってないし、向こうもそんな気さらさらないでしょ」
「ええ、本当に……?」

 サクラちゃんが眉を寄せるが本当に大丈夫だと再度念押しする。中身成人済みの大人が12歳の子供を恋愛感情で好きになることはないのだから。

「…………確かに、アカデミー時代からホタルはサスケ君のこと興味なさそうだったわね。良いわ。ここはホタルに譲ってあげる!」
「話が早くて助かるよ。それにもしかしたらこれがサクラちゃんとサスケ君(+私とナルト君)の初めての共同作業になるんじゃない?」
「きゃーー!もう何言ってんのよ!」

 か、可愛い〜!きゃあきゃあ言ってる恋する乙女のサクラちゃん、可愛い〜!

 最初はめっちゃ面倒くさい班に割り振られちゃったなと思ったけど意外と良いかもしれない。忍にならず、すぐにチームを辞めてしまう身であるが何だかほっこりしてしまった。

「それじゃあ、よろしくね」
「ええ、任せて!」

 そしてサクラちゃんのハンズアップに頷き、私達は二手に別れた。



 ───カカシ先生とサスケ君が交戦していた場所に行けば、首から下を地面に埋めたサスケ君がいた。

 何とも間抜けな格好に苦笑しながら辺りの気配を窺う。
 うん、カカシ先生はいないみたいだね。罠も仕掛けてなさそうだ。

「サスケ君、とんでもない目にあってるね」
「ッ!?…………お前か。何の用だ」

 屈辱的だろう現状にも関わらず、サスケ君がつんと言う。
 相手はまだまだ子供であるため全然怖くない。

「ちょっと提案があってね。サクラちゃんとも相談したんだけど私達4人でスズを取りに行かない?」
「何だと………?」
「カカシ先生の実力を見る限り、個人の力じゃ太刀打ちできないと思う。もちろんサスケ君が弱いと言っているわけじゃなくて、ただ先生が強すぎるってだけ。それだったら全員で行った方がまだ勝ち目はあるんじゃないかな」
「お前らと協力する気なんて無い。仲良しごっこなら他所でやれ。そもそもスズだって人数分ないんだぞ」
「スズは全部奪った後にどう分配するか決めれば良い。じゃんけんでも良いし、それこそ力尽くで奪い合っても有りだと思う。私達の中で一番強いのはサスケ君なんだから、どうとでもなるんじゃない?」

 そして地中に埋まっているサスケ君を掘り起こす。
 いつまでも身動きが取れないのは嫌だろう。

 掘り起こされているサスケ君はどこか不服そうな顔をしているが大人しくしている。
 私の言葉のメリットデメリットについて考えてくれていたら良いのだが、果たして素直に協力してくれるだろうか。

「………それに、サスケ君には野望があるんだよね?よく分からないけどその野望を果たしたいなら、なりふり構ってる場合じゃないと思うよ」
「…………」
「ナルト君の影分身の術にアカデミーきっての秀才のサクラちゃんの頭脳。それにサスケ君の戦闘センスが加われば、カカシ先生からスズを奪えるんじゃないかな。……もちろん私も足を引っ張らないようにする」

 役に立つか分からないがもちろん私も協力する。
 黙り込むサスケ君に、後もう一声かなと口を開いた。

「もしかして、一人で試験に合格することに固執なんかしてないよね?利用できるものは何でも利用しなきゃ」

 ど、どう……?これでもだめ?協力しない?

 サクラちゃんにサスケ君のことを任された手前、やっぱり無理でした〜なんてことは言えない。あんな嬉しそうにサスケ君との共同作業を楽しみにしていたのだ。
 ここは私の顔を立てると思って承諾してほしい……!

 はらはらと窺っているとサスケ君はしばらく考え込んだ後、不服そうに、そしてこれでもかというほど顔を顰めて言い放った。

「………仲良しごっこも協力する気もさらさら無い。お前らを利用するだけだ。誘導ぐらいはやれるだろ」
「ていうことは手を貸してくれるんだね。サスケ君がいれば百人力だよ」

 とりあえず協力してくれるようなので安堵する。
 するとサスケ君は忌々しそうに私を睨んできた。

「お前、アカデミーにいた時はうまく本性を隠していたようだな」
「本性?」
「胡散臭い奴だと思っていたが………」
「い、いやいやいや、全然そんなつもりない。え?まさか本気で言ってる?」

 もしかして私の言った言葉、悪いように捉えられてる?
 いやでも確かに思い返せば、煽っているようにも聞こえる。

 サスケ君の説得は成功したものの人間関係にはヒビが入ってしまったかもしれない。
 子供に軽蔑された目で見られるの結構きついな……!

 何だか犠牲にしたものが大きすぎる気はしたが、気を取り直してサクラちゃん達が待っているだろう場所へ向かった。




 ◇




「やっぱり我慢ならないってばよ!な〜んでオレがサスケと手を組まなきゃいけねーんだってば!」
「チッ、ウスラトンカチが……。誰がドベと手を組むかよ」
「何をーーー!!!」
「ナルト!あんたサスケ君に向かって失礼よ!」

 うーん、やっぱりだめかもしれない。

 目の前ではナルト君とサスケ君が互いにそっぽを向いている。
 けれどこうなることは何となく予想していた。むしろみんなが集まってくれただけでも上々。ナルト君を呼んできたサクラちゃんに改めて感謝したい。

 しかしお昼まであと少ししかないため、ここらでそろそろ話を進めなくてはならない。

「みんな来てくれてありがとう。とりあえず今はカカシ先生のスズを取ることに集中しよう。時間もないから5分で作戦を決めるよ。あと、みんなお腹が空いてない?人数分のレーションあるから、それを食べて腹ごしらえもしておこう」

 朝食を抜くように言われため、途中でお腹が空いた時用に持ってきていたレーションをみんなに配る。

「でもさ、どうやってカカシ先生からスズを取るんだってばよ」
「そこはさ……ほら……、ここにサクラちゃんという頭脳がいるわけだから何か良い案がないかと………」
「って私!?私は勉強ができるだけで作戦なんて……。ていうかホタル、あんたあれだけ言っておいて何も考えてなかったの!?」
「おっしゃる通りで……。ただサクラちゃんが作戦を考えて、すばしっこいナルト君が陽動撹乱して、決定力のあるサスケ君がトドメを、じゃなくてスズを取る感じでうまくいかないかなって」
「ホタルはどうするってばよ」
「私はとにかく足を引っ張らないよう援護するよ」

 ナルト君とサクラちゃんが気の抜けたように苦笑する。サスケ君も呆れた目をして見ていた。
 うんうん。言いたいことは色々あるけど、場が和んだ分良しとしよう。

 弁当が用意されているということはおそらく午後もサバイバル演習をするだろうが、一先ず午前の段階でカカシ先生にどこまでやれるか把握しておきたい。

 そうして私達は作戦を話し合い、各々の役割を決定した。
 あとはカカシ先生に挑むだけだ。






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