───時を遡って、ホタル達の班分け以前。
 カカシは火影室に呼ばれ、この度第七班に所属することになった4名の書類を見ていた。

 うずまきナルト
 春野サクラ
 うちはサスケ
 不知火ホタル

 基本的に一班スリーマンセルで組むのだが、卒業試験の合格者数によってその都度人数は変わっていく。

「九尾の人柱力にうちは一族の生き残り……。それに加えてフォーマンセルは荷が重いですね」
「何を言っておる。お前ならどうってことはないだろう」
「しかしこの面子でフォーマンセルにする必要はないのでは?」

 ただでさえ問題を抱える生徒が2人もいるのだ。おまけに4人もの子供の面倒を見なくてはならないことにカカシは眉を寄せた。

「それなんじゃが……。本来ならば第七班はうずまきナルト、うちはサスケ、そして春野サクラのスリーマンセルにするつもりであった。じゃが、ここで不知火ホタルを入れてみるのも一興かと思っての」
「不知火ホタルを?」

 アカデミー最下位のナルトに秀才のサクラ、そして最優秀成績者のサスケ。成績面でのバランスと問題児2人を監視するために編成されたチームであろう。
 しかしここでホタルを入れるということは、それ以外の部分で彼女に何らかの役割が期待されているのかもしれない。

 そこでふと不知火という姓に特別上忍の不知火ゲンマと、【人たらし】と呼ばれていた男を思い出した。

「もしかして彼女は、あの【不知火ホウカ】の娘ですか?」

 ───不知火ホウカ。
 数年前に妻と共に任務で亡くなった忍で、面倒見が良く朗らかな人柄の男であった。反面、人心掌握術にも長けており、多数の潜入任務から三代目、そして四代目火影の補佐として他里の外交に顔を出す実力者でもあった。

 ふざけて誰かが言った【人たらし】の通り、不知火ホウカは一見害のなさそうな顔でするりと懐に入っては意のままに操る。おまけにそれを気付かせず、相手を気持ちよく転がす様にとんだ狸がいたものだと当時幼いカカシは思っていた。

「そうじゃ。不知火ホタルはあやつの一人娘。アカデミーでの評価を見る限り、不知火ホタルにもホウカの性質が受け継がれている可能性が非常に高い」

 なるほど。不知火ホタルにナルトとサスケを導く手助けをさせるつもりか。

「賭けすぎやしませんか?忍に年齢は関係ないとは言え、アカデミーを卒業したばかりでしょう。不知火ホウカは里に対する忠誠心があったため良かったですが、娘のホタルはまだガキです。どこで何に影響され、それがナルトやサスケ達にどれほど影響を及ぼすか……」

 そしてその手綱を取るのがオレかとカカシは顔を顰める。

「不知火ホタルに面談といってカウンセリングを行った結果、幸い潜在的危険思想はなかった。毒になるか薬になるか一種の賭けじゃが、あの不知火ホウカの才能を正しく引き継いでいた場合、第七班の潜在能力は底上げされるじゃろう」
「はあ……」
「それに不知火ホタルは里の者達の覚えが良い。そこまでは期待しとらんが、後々ナルトと里の者達の調整役になってくれるかもしれんしの」

 聞けばホタルは元来の面倒見の良さで時折里内の店の手伝いをしたり、バイトと称して子守や犬の世話といった仕事をしているらしい(ホタルからすれば後の就職活動の布石として働いていただけであるが、それは奇跡的に悟られていなかった)

 幼い子供が礼儀正しく手伝いを買って出る様は、里内の者達から随分と好意的に見られた。

 あまりにも出来過ぎな不知火ホタルの印象に違和感を覚えつつも、彼女の存在が第七班にとって吉と出るか凶と出るか。カカシは溜息をつかずにはいられなかった。



 そしてそのカカシの勘は正しく、アカデミーの渡り廊下で出会ったホタルは非常に【よく出来た子供】だった。
 初対面のカカシに対し警戒心を抱くものの、穏やかな笑みを浮かべて感情を隠す様は、アカデミーでごく普通に過ごしてきたはずの少女にしては異様である。

 また自己紹介をしなかったと言う理由で申し訳なさそうにする姿は、どこからどう見てもただの子供にしか見えなかった。

 上っ面な笑みを浮かべてカカシを観察する姿と、普通の少女のように落ち込む姿。演じているのかどうか分からないが、ホタルのその二面性は今日明日で到底把握できるものではないと理解する。

 ───毒になるか、薬になるか。

 火影の言葉が頭をよぎる。
 そしてあの【人たらし】はとんでもないものを残したなと改めて思った。




 ◆




 下忍昇格試験であるサバイバル演習にて。
 もうすぐ日が真上に登りそうなのを見るに、制限時間の昼まであと少しだろう。

 監視させていた分身で4人の子供達が作戦を立てているのは見ていた。

(もっとこう、荒れると思ったが想像以上にスムーズだな。ナルトとサスケ、サクラの性格と関係性を鑑みて拗れると思っていたが………)

 カカシの脳裏に焦げ茶色の髪をした少女が浮かぶ。
 不知火ホタルの口八丁によって集められた彼らに苦笑した。

 すでに試験の基準をクリアしているため、この段階で合格させても良い。
 しかし現状彼らがどこまでやれるか気になった。

 するとその時、こちらにやって来る気配に気付く。

(そろそろか)

 そして次の瞬間、茂みの中から四つの人影が飛び出した。







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