あれ、私何でまだ忍やってるの……?

 計画では下忍昇格試験に落ちて忍を辞めるはずだった。サバイバル演習でスズを取り、他三人に譲って辞めるはずだったんだ。
 しかし何故か、合格してしまった。

「ホタル?どうしたのよ」
「………え?あ、ちょっと現実逃避してた……」

 サクラちゃんの言葉に我に帰り、辺りを見渡す。空は雲一つなく晴天で、演習場の森の木々がさわさわと揺れている。
 たった今、迷い猫探しのDランク任務にてターゲットである猫の【トラ】をちょうど見つけて捕まえたところだ。

 トラはナルト君の腕の中で暴れており必死にもがいている。脱走していたにも拘らず意外にも小綺麗なトラに、もしかしたら自由を謳歌しつつも近所の家々で可愛がってもらっていたのかもしれないと思った。

「こんのバカネコーーー!大人しくしろってばよ!」

 平和だ。それを見て何だか笑ってしまった。




 ◇




 何やかんやあって忍になったものの、私の生活は思っていたよりも平和であった。
 新米下忍に割り振られる任務はほとんどがDランク任務。ペットの捜索に子守り、店の手伝いから農作業まで幅広くやるのだが、血生臭くないそれらの仕事に私はとても満足していた。

 忍なんて危険な仕事を勤められる自信がなかったし、何より命が惜しい。
 けれど任務内容がこうも穏やかなものであるのなら下忍も悪くない気がしてきた。忍を辞めるか、このまま一生下忍でいたい。

 しかしもちろん、それに納得しない人もいる。
 ───ナルト君だ。



「オレってばもっとこう、スゲー任務がやりてーの!子守りも芋掘りもノーサンキューだってばよ!」

 迷い猫のトラを依頼人に引き渡し、火影邸の一室にてナルト君が騒ぎ出す。
 それを目の前に座る火影様は呆れ返り、その隣にいるイルカ先生は叱り飛ばした。

「お前はまだペーペーの新米だろうが!誰でも初めは簡単な任務から場数を踏んで繰り上がっていくんだ!」
「だってだって!この前からずっとしょぼい任務じゃん!」

 確かにその通りだとサクラちゃんやサスケ君の顔がしょっぱいものとなる。私は全然満足してるんだけどな………。

 ナルト君の癇癪をぼんやりと眺めながら、次はどんな任務が割り振られるか考える。
 畑の農作業とかだったら良いなあ。大変だけど収穫した野菜が多ければ分けて貰えるのだ。食費が浮くし、何より採れたての野菜は美味しい。

「良いか?依頼はワシら上層部がその能力にあった忍者に任務として振り分ける。で、任務を成功すれば、依頼主から報奨金が入ってくるというわけじゃ」

 ナルト君を諭すように懇切丁寧に任務について火影様が教えてくれる。

「とは言ってもお前らはまだ下忍になったばかり。Dランクがせいぜい良いとこじゃ」
「昨日の昼はとんこつだったから今日はミソだな」
「きけェェェイ!!!」

 しかし火影様のありがたい言葉は届いておらず、ナルト君はそっぽを向く。カカシ先生が慌てて謝っているが、教師も大変だなと苦笑いしてしまった。

 するとその時、ふと視線を感じる。

 ん?誰だと思って見渡せば、何故かイルカ先生が私に向かってアイコンタクトをしていた。

 私の顔をじっと見つめ、ナルト君を顎で差し、頷く。

 イルカ先生の横を見れば、火影様までも私を見て頷いていた。

 …………まさか私がナルト君をどうにかしろと?

 いやそれは担当上忍の役目でしょ、とカカシ先生に目を向けば、何故か彼もお手並み拝見といった様子で私を見ていた。

 え、ええ?何で私?何で私がそういうのをやんなきゃいけないの?班員の問題行動を諌めるのは担当上忍の役割じゃないの?部下の私が上忍差し置いて注意したら角が立たない?そこら辺大丈夫?

 そもそも初対面の時から思っていたが、カカシ先生と私は壊滅的にそりが合わない。
 何故かカカシ先生は私のやること成すこと意味深に捉え、反応を見るかのようにわざとカンに触る物言いをしてくるのだ。

 例えば家で作りすぎたクッキーをお裾分けと称して、第七班に配っていた。
 本当はナルト君やサクラちゃん、サスケ君といった子供メンバーのみ手渡したかったのだが、それだとカカシ先生に申し訳ないかなと思い先生にも配ったのだ。

『…………どういうつもり?』

 しかしカカシ先生は真顔でそう言い放った。

『ちょっと先生!女の子のお菓子に対してそれはないわよ!』
『ああ、ごめんごめん。ありがとね、ホタル』

 それに対してサクラちゃんがドン引きして怒っていたが、こうも曲解して受け止められるとカカシ先生に対しての信頼が地に落ちる。

 どういうつもりも何もないけど……。もしかして嫌味?クッキー焼いてる暇あるなら修行しろっていう。

 他にも細々とした諍いはあるわけだが……。特に何も考えていないのにその都度疑われ、私も私で悔しいから愛想笑いして「そんなつもりは無いですよ」と言う。
 そしてそこから何故か腹芸の応酬みたいな会話になってしまうのだ。

 もー!一体何なの!面倒くさい!

 別にさ、火影様やイルカ先生からアイコンタクトで「ナルトを何とかしろ」って言われるのは良いよ?火影様は里で一番偉い人だし、イルカ先生はアカデミー時代のよしみもあるし。

 でもカカシ先生がそれをするのはイラっとする。カカシ先生が微妙に嫌いなのもあるけど、カチンときてしまうのだ。

 ───しかし彼は私の直属の上司。
 そんな態度を表に出せるわけもなく、大人しく上司の言うことを聞くしかなかった。

「まあ、ナルト君。ここは……ええと、あれだ……」

 だめだ。カカシ先生への怒りで頭が動かない。そんな私を珍しいものでも見るかのように先生が観察してくるが、見てる暇があればフォローしてほしい。あれ、チームワークって何だっけ……?

「ほらー!ホタルもしょぼい任務は嫌だって言ってるってばよ!」
「言ってないよ」

 思わず突っ込んでしまう。

「オレってばもう、じいちゃん思ってるようなイタズラ小僧じゃねぇんだぞ!」

 そしてナルト君はフン!とそっぽを向いた。
 「おいおいホタル、いつもの口八丁はどうした」と言わんばかりのカカシ先生の視線が突き刺さる。勘弁してくれ。

 しかしそんなナルト君の態度に火影様やイルカ先生がほんのわずかに笑みを浮かべた。
 きっとあの悪戯小僧のナルト君が一丁前に言うようになって……と微笑ましくなっているのかもしれない。それに私も何だか微笑ましくなる。

 けれど次の瞬間、火影様の口からCランク任務を言い渡された。まさかナルト君の我儘によって本当に任務をあてがわれるとは思わず、この時本気で彼を止めておけば良かったと死ぬほど後悔した。







 | 

表紙へ
top