快晴の空の下、第七班は木の葉の里の巨大な門の前に立っていた。
 この度Cランクの依頼主であるタズナさんを波の国まで送り届け、橋作りの支援護衛をすることになったのだ。

 そしてそんな中、ナルト君はどこか落ち着きがない。「しゅっぱーつ!!」と言ってはしゃぐ姿にサクラちゃんから呆れられているが、きっと初めての里外や護衛という忍らしい任務に気合いが入っているのだろう。

 そんなナルト君に依頼主のタズナさんは不安そうだ。

「おい!本当にこんなガキで大丈夫なのかよ?」
「上忍の私がついております。そう心配いりませんよ」

 タズナさんの不安も尤もだが、今回はCランク任務。タズナさんがもし大名だとか偉い人だったら命を狙われる可能性があるが、彼は一介の(凄腕の)橋づくり職人。
 他里の忍から襲われる心配はないだろうし、もしあったとしてもギャングや盗賊といった武装集団くらいだ。

 あれ、壮大なフラグを立てたかのような寒気がしたけど気のせいかな………。

 それはさておき、私も波の国に行くのは初めてだ。父に連れられて砂隠れの里に行ったことはあるが、それ以外の場所がどうなっているのかとても気になる。可能かどうかは分からないが、忍がおらず治安が良ければぜひ移住したい。

「波の国ってどんなところなんだろう」
「何だ、嬢ちゃん。気になるか」

 ぽつりとこぼせば、たまたまタズナさんの耳に入ったらしく聞き返してくれた。

「はい。波の国に行くのは初めてなので、どんな所か気になります」
「あんまり良いところじゃねえぞ。生まれ故郷だが、年中霧に包まれて辛気臭えんだ。………それに国自体が貧乏だから皆目が澱んでいる」

 故郷の自虐的な意味合いで言ったのだろうが、タズナさんの瞳がどこか悲しげに揺れている。何だか悪いことをしてしまったかのような気持ちになり罪悪感が湧き上がった。

「…………ま!住めば都って言うしな!それに橋さえ完成すりゃ何とかなるってもんだ」

 気を遣ってくれたのか空気を変えるかのようにあっけらかんと言ってくれる。
 それを見てほっと安堵した。

 ───するとその時、ふと前方の地面に水溜りがあるのに気付く。

 雨が降ってないのにおかしい。局所的な通り雨でも降ったのだろうか。その割には周囲があまり濡れていない。

 嫌な予感がしてカカシ先生を見れば、先生もその不自然な水溜りを横目で確認していた。

 ごく自然に見えるよう、咄嗟にタズナさんを遠ざける。

 次の瞬間、水溜りから吹き出すように黒い影が二体現れた。

 霧隠れの額当てをした不気味な忍達が、初めから狙っていたかのようにカカシ先生に襲いかかる。
 そして一瞬にして強固な鎖で縛られた先生は、そのまま力づくで身体を引きちぎられた。

 きっとカカシ先生のことだから変わり身でも使って無事だろう。しかしタズナさんやサクラちゃんは顔を真っ青にさせている。

「まずは一人目」

 霧隠れの忍の目線がタズナさんに固定される。
 こいつらのターゲットはタズナさんか!

 そしてサスケ君が飛び出した。サスケ君が忍達の相手をしてくれている内に、こっちはこっちで何とかしなければならない。

「タズナさん、ちょっと」
「な、何じゃ?」

 戸惑ったように狼狽えるタズナさん。
 そんな彼を安心させようと微笑んでみるが、何故かサイコパスを見るかのような目で見られてしまった。




 ◇




 霧隠れの忍達はカカシ先生によって即座に拘束された。それを見てほっと一息をつく。

 カカシ先生が襲撃者に対して果敢に挑んだサスケ君と必死にタズナさんを守ろうとしたサクラちゃんを褒める。
 それにナルト君が悔しそうにしているが、それどころではないだろう。彼の手のひらに霧隠れの忍によって傷がつけられたため処置が必要だ。

「ホタル、そろそろ変化を解いて良いぞ」
「あ、はい」

 カカシ先生からの許可をもらったため、私はタズナさんの姿から変化を解いた。

「え、ホタル!?」

 サクラちゃんが戸惑ったように振り返る。ずっと背にして守っていたのがタズナさんではなく、タズナさんに変化した私で驚いたのだろう。
 サスケ君もナルト君もぎょっとしたように私を見た。

「ど、どういうことよ!?」
「サスケ君が忍達と交戦している間に、タズナさんに変化していたの。それから身代わりの術でタズナさんと場所を交換したんだ」
「じゃあ、タズナさんは……?」
「タズナさんはちょっと離れたところで待機してもらってるよ。周囲に他の忍の気配が無かったから大丈夫かと思って」

 それにもし周りに忍がいたとしても、サスケ君に任せてぎりぎりまで戦況を確認していたカカシ先生が瞬殺したに違いない。
 霧隠れの忍達が近く、乱戦になりかけていたこの場にタズナさんを居させるよりか安全だと思った。

 そのことをサクラちゃんに話せば、力が抜けたように脱力される。
 そして「もー!」と怒りながら私の体をポカポカと叩き出した。いや、もう、本当にごめんなさい。

「おーい、もう出てきても大丈夫か?」
「はい。タズナさん、もう出てきてくださって大丈夫です」

 少し離れた茂みから、葉っぱを至るところにつけたタズナさんが現れた。

「嬢ちゃんがいきなり首根っこ掴んで茂みに放り込んだ時はさすがにびっくりしたわい。しかも笑顔で」
「荒っぽくしてしまってすみません。それにタズナさんには安心してほしくて笑顔を作っていたんです」
「本当かそれ」

 タズナさんが怪訝そうな顔をする。

 もし私に影分身が出来ていたら、その分身をタズナさんの近くに待機させたかった。それが出来るのはナルト君であったのだが、敵が現れて茫然としていた彼にさせるのは難しいと判断したのだ。

「ホタルも良くやったな」
「いえ。………あの、ナルト君の傷を早く止血した方が良いんじゃないでしょうか?」

 正直タズナさんを茂みに放り込んでサクラちゃんに守られていただけの仕事なので褒められても困る。
 ナルト君の傷も心配なため話を変えれば、カカシ先生は首を振った。

「いや、こいつらの爪には毒が塗ってある。止血するよりも先に傷を開かせて毒抜きをさせるのが先だ。ナルト、あんまり動くな。毒が回る」

 そしてカカシ先生はタズナさんを一瞥する。

「タズナさん、少しお話があります」

 そう言って問い詰めようとする先生の声音は随分と低いものだった。




 ◇




 カカシ先生とタズナさんの話を要約すると、どうやらこれはただのCランク任務ではなく、Bランク以上相当なものであるらしい。

 他里の忍から狙われると分かっていて、木の葉の里にはCランク任務として依頼しただろうタズナさんに何とも言えない気持ちになる。
 襲いかかってくるのがギャングや盗賊ならまだしも、忍となると下忍のペーペーである私達には荷が重かった。

 サクラちゃんも同じことを思ったのか口を開く。

「この任務、私達にはまだ早いわ……。止めましょ!ナルトの傷口を開いて毒血を抜くにも麻酔がいるし……。里に帰って医者に見せないと………!」

 全くもってその通りだ。しかしこのままではタズナさんも引き下がれないだろう。

 ここで現状思いついた案はまずみんなで木の葉の里に帰る。タズナさんが里の金融機関でお金を借りる。再度Bランク以上で任務を依頼する、くらいだ。
 タズナさんが借金をすることになるが命はお金に変えられない。

 けれどここで借金して任務を再依頼しろと言うのは、人間性を疑われかねないため大人しく黙った。

 もうこれ以上、サイコパスを見るかのような目で見られたくない。

「サクラはこう言っているが……。ちなみにホタルはどう思う?」
「サクラちゃんに全面的に同意ですね。それにこのまま任務を続行しても最悪タズナさん諸共やられる可能性だってあります。それなら一旦里に戻って、一度冷静になった方が良いと思いますよ。…………タズナさんもきっと間違ってCランク任務として依頼しちゃっただけかもしれないですし」

 ね?とこの場を穏便に済ませようと言ってみたが、何故かタズナさんは顔を真っ青にさせた。あ、あれー?

「ホタル、それは一周回って脅しになってるからな……。ま!とにかく二人の言う通り、この任務は荷が重いな!ナルトの治療ついでに里へ戻るか」

 うんうん、同意同意。珍しくカカシ先生と意見が合う。

 しかしその時、ナルト君が傷口に向かってクナイを突き刺した。
 え、何やってんの……?………え!?何やってんの!?

「ナルト何やってんのよ!あんた!」

 サクラちゃんが叫ぶ。全員がナルト君の行動に驚き、目を丸くした。

 そして彼は傷口に血を滴らせながら、覚悟をもって言い切った。

「このクナイで、オレがおっちゃんを守る……!任務続行だ!!」

 この時、私は久しぶりに思い出した。
 この世界の主人公がナルト君であったことを。







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