なつかしい痛み

また合宿所近くのコートに戻ってきた私たちは、さっそく例の2人を捜し始める。と言っても、捜してるのは実質私1人で、あっくんは私のあとをただ着いてくるだけだった。2人が鳳凰さんに滅ぼされようがなんだろうが、そんな事はどうでもいいと思っているらしく、全くやる気が感じられない。

「ちょっと遠野くん、ちゃんと捜してよ」

後ろを振り返りながらそう言うと、ボールの飛び交うコートを見ていたあっくんは視線を私に投げて寄越した。

「お前ってマジでお人好しだよな。放っとけよ、自業自得だろ」
「でも、あれ聞いといて教えてあげなかったら、私あとで絶対恨まれるやつじゃない?」

しかも鳳凰さん、あの2人に謝りに来いって伝えろ、って暗に言ってたようなもんだと思うんだよね……。

「だから教えてあげないと」

そう言って前に向き直ると、あっくんが後ろで、ハイハイ、と呆れたように呟いたのが聞こえた。
しばらくコート付近をうろついていると、合宿所の裏手の方で聞き覚えのある声がした。声のした方に向かうと、建物の影になった階段に腰掛けて雑談をしている2人が目に入る。

「修さん!奏多さん!」

歩いて行きながら声をかけると、談笑していた2人はぴたりと会話をやめてこっちを見た。ほんの少しの沈黙のあと、気まずそうな雰囲気を漂わせながら、2人は別々の方向に視線を逸らした。お前ら確実に私の事嵌めたな。

「鳳凰さんの件なんだけど」

私が低い声でそう言ったら、2人は揃って肩を跳ねさせる。そんな2人を見て、私が本気で怒ると取りつく島がない事を身を以て知っているあっくんは、めちゃくちゃやる気のない助け舟を出した。

「こいつキレるとあとが怖いから。今のうちにさっさと謝っとけよ」
「あと、鳳凰さんにもね」

そう付け足すと、2人は一緒になって、観念したようにため息をついた。それから、これも一緒に私に向かって頭を下げる。「ごめんなさい、仕組みました」その謝罪のあと顔を上げた2人は「バレてもうたかー」「上手くやったと思ったんだけどなあ」と口々にそう言った。いや清々しいくらい反省する気ゼロじゃん。

「ほんの出来心やん? お頭が歩いてくるん見えたから、ちょっと実験してみよ思うてん」
「その出来心のせいで滅ぼされてたかもしれなかったんだけど」
「それは素直にごめん。マキの言う事ならジョークに取ってくれるかなぁ、と思って」
「あいつにジョークが通じると思ってんのかお前は」
「もう何でもいいけど、早く謝りに行ってきなよ。鳳凰さん、あれ絶対本気で怒ってるって」
「またまたー、そないおどかさんといてや」
「いや、あれほんとに怒ってるよ。ね、遠野くん」
「え、まさか2人で行ってきたの?」
「1人じゃ嫌だから付き合えって言われて、仕方なくな」
「よく言う。”俺が最後まで面倒見てやる!”とか言ってたくせに」
「うるせぇな! お前が人の事振り回すからだろ!」
「ハイハイすみませんでしたー。とまあ、それは置いといて、2人とも本当に謝りに行った方がいいよ」
「まあ、行きたくなきゃ俺は別にいいと思うけど。……さーて、どっちが先に滅ぼされんのかなぁ?」

あっくんのダメ押しと意地の悪い笑顔に、さすがの2人も、これは本気でヤバいやつだ、と思ったらしい。

「ほ、ほな、謝りに行ってこよーかな? な、奏多」
「そ、そうだね修さん。悪い事した時は謝らないと……」

階段から素早い動作で腰を上げた2人は、心なしか早足でコートの方へと向かう。
ひとつ言い忘れていた事があるのを思い出した私は、遠ざかる2人の背中に向かって声を張り上げた。

「あと! 鳳凰さんが、”10分以内に謝りに来ないと滅ぼす”ってーー!!」

その言葉を聞いた2人は、一瞬だけ顔を見合わせると、100m走さながらの勢いで駆け出した。
そんな2人を見送って、相変わらず意地の悪い笑みを浮かべたまま、あっくんは私を見て首を傾げる。

「"今日中"じゃなかったっけ?」
「あれ? そうだったっけ?」

負けず劣らず意地の悪い笑顔を浮かべているであろう私に、あっくんはくつくつと笑った。

「いい性格してるよな、お前も」
「あっくんには負けるって。あー、スカッとした」

そう言って笑うと、あっくんが拳を差し出してくる。私はそれに自分の拳をぶつけて、悪巧みが成功した子供みたいに笑い合うのだった。


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