目が覚めたのはベンチの上だった。
あれ? おかしいな。私、ちゃんとバスの座席に座って寝てたと思うんだけど……。辺りを見回してみるけど、真っ直ぐ続くコンクリートで舗装された道の両脇に雑木林が広がっているだけで、バスのバの字もなかった。
ていうか、私をベンチに置き去りにしてみんなどこに行ったの?合宿所には帰って来られたんだよね? まさかバスに乗ったっていうのは私の錯覚……?
ベンチから立ち上がろうとすると、何かが膝から滑り落ちる。誰かの上着だった。拾い上げて襟元を見ると、No.9のバッジ。ああ、やっぱりツキさんはやさしいな。いや、だったら起こしてくれよ。って感じではあるんだけど……。
ツキさんの上着を腕に抱えて、私はとりあえず歩き出した。おそらく、この道をまっすぐ行けば合宿所に辿り着けるはず。少し歩いたところで、どこからかテニスボールを打ち合うような音が聞こえてきた。やった、誰かいる!
音のする方へ雑木林の中を歩いていくと、突然視界が開けて、目の前にテニスコートが広がった。ボールを打つ音はもう止んでいて、右のコートに倒れている秋庭さんと、左のコートに立っている奏多さんが見える。あ、試合してたのね。それで奏多さんが勝った、と。
「あれ、マキじゃないか。おかえり」
私に気付いた奏多さんが、にっこりと笑いながらそう言った。
「ただいま。No.20昇格おめでとう」
「ああ、うん。ありがとう。どうだった? 海外は」
「楽しかったよ。主に観光が」
「それマキがでしょ。趣旨ズレてるし」
「実際試合より観光の時間のほうが多かったから。あ、あとで写真見せたげるね」
そう言ったら、テニスコートから出てきた奏多さんは呆れたように笑って、君たちむこうになにしに行ったの。と返してくる。私は観光、みんなは試合。そう言ったら、奏多さんは吹き出した。そして少し笑ったあと、思いついたように顔をパッとあげる。
「あ、そうそう、今この合宿おもしろいことになっててね」
「おもしろい? お笑い芸人でも来てるとか?」
また吹き出す奏多さん。私は合宿より奏多さんの方がおもしろいよ。
奏多さんが歩き出したから、私もついて行く。秋庭さんは置き去りにしていく形になるけど、子供じゃないんだし大丈夫だろう。奏多さんについて行けば、みんなのところへ行けるはず。
「違う違う。中学生がさ、合宿に参加してるんだけど」
「中学生のお笑い芸人が?」
「芸人は忘れようか」
「ごめんなさい。で、中学生がどうしたの? もう、めっちゃくちゃ強くて合宿は中学生の巣窟と化してる。とか?」
冗談のつもりで言ったのに、奏多さんは驚いたように目を大きくして私を見た。あれ、ほんとなの……?
「え、そ、そうなの?」
「うん。彼ら、強いよ。と言うより、強くなった。と言うべきかな」
「へえ……。すごいね、中学生。若いからかな」
「僕らだってまだ充分若いでしょ」
「若干名、若くなさそうなひとがいるけどね」
「中学生にも何人かいたよ。すごいのが」
「え、あの鳳凰さんを凌ぐくらい?」
「かもね」
「ヒゲは?」
「さすがにいなかった」
「だよね」
私と奏多さんはそう言って笑った。