「ていうか、それ誰のジャージ? 遠野くん?」
隣を歩く奏多さんは、私が腕に抱えているジャージを指差して言った。
「どうしてそこであれの名前がでてくるの? あいつやさしくないから。ツキさんのだよ」
「ああ、ね。そもそも、なんでジャージなんか持ってるの?」
「バスで寝てて、気付いたらベンチに置き去りにされてて、ジャージが上にかかってたから」
「起こせよ。って感じだね」
「前から思ってたんだけど、奏多さんとは気が合う」
「奇遇だね、僕もだよ」
とか、そんな会話をしているうちに合宿所とコートが見えてきた。あ、ツキさん発見。背が高いからすぐ見つかるんだよね。ジャージを返しに行こうと思ったけれど、斎藤さんに渡すデータがあるから、奏多さんのあとについて歩いて行く。
「活気が出てきましたね、この合宿……」
「入江くん!?」
「と、おかえりなさい。高司さん」
なにこの驚き方の差。笑えるんですけど。
「……でも、彼は黙ってないかな」
そう呟いた奏多さんの視線の先には鳳凰さん。そんなことよりツキさんが半袖で寒そう……! あのひと冷え性なのに!
「斉藤さん、これ海外での試合の記録です」
そう言って私は、半ば押し付けるようにしてノート数冊とUSBメモリを斉藤さんの手に置いた。それから斉藤さんのお礼の言葉も訊かずにコートへ駆け出す。だってツキさんが寒そう!早くジャージ返さないと!
「のぼせ上がるな小童ども」
とすごい剣幕で喋る鳳凰さんの前を走り抜けて(修さん曰く”鳳凰が2度見してた”らしい)、沈黙した空気の中、私はツキさんにジャージを返してお礼を言った。そしたら、ツキさんの隣にいたあっくんが、お前ってほんと空気読まないよな。とか呆れたように言ってきた。うるさい。そんな遠野を無視して、私はツキさんと会話。
「上着かけてくれるくらいだったら、叩き起こしたほうがよかったのに」
「叩き起こそうとした鳳凰君を、越知君が止めたんですよ。かわいそうだからって」
あっくんの隣から顔を覗かせたキミさんが言う。やっぱりモミアゲ剃ったらいいと思うんだよ。そしてやっぱりツキさんはやさしい。でも、こういうことって普通、幼馴染みがやるべきだよね。そうだよね、そこのロン毛。
「そっか、ツキさんありがとう」
「いや、礼はいい。いま思えば、起こしたほうが正解だったな」
そう言って、ツキさんはちらりと鳳凰さんのほうへ視線を向ける。つられてそっちを向いたら、鳳凰さんとばっちり目が合った。さっき邪魔したこと根に持ってるんだと思う。だってツキさんが寒そうだったんだ、って、あとで弁解しよう。