肝試ししようよ2

私たちをバスで送り届けてくれた斎藤さんは、「それじゃあ、楽しんできてくださいね。あ、頑張れば明日の朝には合宿所に帰って来られると思いますよ」と言い残してバスを発進させた。……いや、今のって”走って合宿所まで帰ってこい”って意味だよね。選手のみんなはまだしも、私一般人なんですけど?
これから始まる悪夢を思いながらバスの去って行った方を茫然と見ていると、サブちゃんが正面に回って来て、絶望のあまり身体の脇にぶら下がっている私の両手をぎゅっと握りしめた。

「心配せんといてください! 俺が何がなんでもマキさん合宿所に連れて帰りますから!」
「あ、ああ、うん……。ありがとう?」

何か言おうと口を開きかけたサブちゃんを遮って、紙を手にしたあっくんが、私とサブちゃんの間に文字通り割って入る。あっくんは私の腕を掴んで、「こいつ借りるな」と紙から目も上げずに言うと、私の腕を引っ張ってサブちゃんから引き剥がした。
「ちょっと遠野さん!」後ろでサブちゃんの声が聞こえたけど、あっくんは完全無視で後ろを振り向こうともしない。私は首だけで後ろを振り向いて「ごめんね」と口パクで謝って、片手で”ごめん”の仕草をする。そんな私に、サブちゃんはため息を吐いて、苦笑しながら肩をすくめてみせた。
みんなの輪から少し離れた場所まで来ると、あっくんは私の腕をぱっと離した。相変わらずその視線は手にした紙に注がれたまま。

「ねえ、遠野くんさっきからなに見てるの?」

私の声に顔を上げたあっくんは、見ていた紙を手渡してくれた。手渡された紙に視線を落とすと、そこには参加者全員の名前が印刷されている。

「組み分け面倒だからクジにしようと思ってよ。人数確認してた」

実行委員長らしからぬ発言に苦笑しつつ、私は自分の名前を探したけど、なぜか見当たらなかった。……あれ、待てよ、名前がないって事は参加しなくていいんじゃない? と思ったのも束の間、隣に立つあっくんの口からとんでもない言葉が吐き出された。

「あ、マキは俺とだから」
「え? いや、だって今クジって……」
「俺とお前以外は、って意味に決まってんだろ」
「さすがに暴挙すぎるでしょ……。私の意見は?」
「却下。実行委員長俺だから」

いやいや職権濫用だよねこれ。
しかも、よりによって一番やばそうなあっくんとなんて本気で嫌だ。もう絶対呪われるに決まってる……!
私があまりに絶望的な顔をしていたからか、1軍メンバーが心配そうな顔をしながらこっちに歩いてきた。

「どないしたんマキ、顔色めっちゃ悪いで?」
「肝試しの組み分けが不服なんだとよ」

私がことの顛末を話そうと口を開くより先に、あっくんがそう答える。私を睨みつけながら、だ。だって嫌なものは嫌なんだから仕方なくない?

「え? もう組み合わせ決まったの?」
「お前らはまだ。俺とコイツだけ」

そう言って首を傾げる奏多さんに、あっくんはぶっきらぼうに返事を返した。

「ってことはアレなん? 俺らの組み合わせは決まってへんけど、マキはアツと行くんが確定しとって、マキはそれに納得いってへん。って認識で合っとる?」

私はすごい勢いで頷く。それを見た修さんが「めっちゃ嫌がっとるやん」と苦笑する。あっくんは相変わらず私を睨みつけていて、もしも今ここにラケットとボールがあったら、確実に処刑技を発動していただろうという雰囲気すらあった。
私たちの間に不穏な空気が流れる。そんななか、サブちゃんがそっと私に耳打ちをしてくる。あっくんは、我関せずとでもいうように足元に転がっている小石を蹴っていた。

「ほんならマキさん、俺が代わります?」
「え? で、でも、そしたらサブちゃん遠野くんとだよ……?」

かわいい後輩をあっくんの生贄に差し出すのはちょっと気が引ける……。私がそう思っていると、サブちゃんはあっけらかんと明るい声をあげた。しかもけっこうな声量で。

「ちゃいますよ! マキさんと替わるんやなくて、遠野さんと」

ポケットに手を突っ込んで、暇つぶしがてら小石を蹴っていたあっくんは、サブちゃんの言葉にゆっくりと顔を上げた。

「お前さぁ、俺にケンカ売ってんの?」

不穏に首を傾げるあっくん、とは対照的にヘラヘラした笑顔のサブちゃん。

「そんなんやないですって。ただ、マキさんがかわいそうやなー思うただけです」

例の幼馴染み擬似体験以降、誤解が解けていないサブちゃんは、なにかと言うとあっくんに突っかかっている。あっくんもサブちゃんも本当にごめん。誤解を解くための話を言い出すタイミングがわかんなくて放置しちゃってる……。

「ああ? どこがかわいそうなんだよ」

あっくんもサブちゃんに負けじと言い返す。巷のヤンキーみたいに顔を突き合わせる2人。
そんな光景を見た修さんは「バトル勃発やな」とか言って、ニヤニヤしながら親指で2人を指し示す。”これは面白そうな事になってきたぞ”とその顔が言っている。いや見てないで止めてよ。
なんかもうリアルファイトが始まりそうな勢いで、さすがにそれはまずいだろうと判断した私は、睨み合う2人の間に割って入る。

「サブちゃんごめんね! 大丈夫だよ、私が遠野くんと行くから!」

すっごい嫌だけど!と、私は大声で付け足す。もちろん、心の中だけで。
それを聞いたあっくんは「だとよ」と勝ち誇ったように笑うと、組み分けのクジを作るべく、足取り軽くこの場を離れていった。
そんなあっくんの背中を見送る修さんが「難儀やなあ」とぽつりと呟く。


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