肝試ししようよ

自室を出て廊下を歩いていると、反対から廊下を隅々まで調べつつ、こっちに歩いてくる鬼さんと出くわした。

「鬼さん、おはよう」

私が声をかけると、鬼さんは顔を上げて「おう、おはよう」と笑ってくれる。かえでちゃんを捜していた時の死んだような顔から、もとの元気な鬼さんに戻ってくれて本当によかった。
鬼さんがここにいるということは、きっとこの近くでかえでちゃんの目撃情報があったに違いない。私も、情報だけはちらほら耳にするものの、いまだにかえでちゃんの姿を見た事はなかった。

「かえでちゃん見つかるといいね」
「そうだな。早く見つけてやらねえと」

鬼さんは頷くと「じゃあ、またな」と片手を上げて、かえでちゃんの捜索を再開すべく、私の横を通り過ぎて行った。
その後ろ姿を見送って、私も掲示物の確認に行こうと歩き出す。階段を降りてエントランスを抜け、掲示板の前にたどり着く。
貼り出された掲示物に目を通していると、ひとつ気になるものを見つけた。
”中高生合同肝試し大会のご案内”と書かれたプリントだ。中学生と親睦を深めるためになんかやったらどうだ。とかいう、かなり投げやりなコーチ陣の提案があった事は私も知っている。
…………それにしても、”肝試し”ってなに? こういうのって普通、もっと明るいイベントやるんじゃないの? そう思いながら貼り出されたプリントの概要をよく見る。すると、実行委員長に”遠野篤京”の文字。……なるほど、もう完全に理解した。
どうしよう嫌な予感しかしない、胃の痛む思いでそれを眺めていると、突然、誰かが私の肩を叩く。びっくりして振り返ると、眉間にシワを寄せた修さんが、顎に右手を添えて、例の肝試しのプリントを見つめていた。修さんが来た事にも気づかないなんて、ちょっと集中しすぎてたかな……。

「なあ、マキはどない思う?」
「うーん……、委員長が遠野くんって時点で色々とやばそうだなって思う」
「せやなぁ……。しかも強制参加やん?」
「うそ! そんな事どこに書いてあるの?!」

「ここ」と言って、修さんは一番下の小さな文字列を指さした。そこには確かに、”尚、不参加は認められていません”とはっきりと書かれている。ちょっとこれタチ悪くない?

「な? あったやろ?」

私は無言で頷いた。

「でも遠野くん、肝試しのことなんか一言も言ってなかったけど……」
「驚かせたろ、思ってたんちゃう?」
「ああ、有り得る……」

苦笑しながら頷くと、「せやろ」と修さんも苦笑した。すると、私の後ろに誰かを見つけたのか修さんが片手を上げる。誰だろうと思って振り返ると、あっくんがこっちに向かって歩いてくるところだった。
私と修さんを見てから、掲示板にチラッと視線を送ると、あっくんはニヤリと笑う。私たちが、例の肝試しの件を話していたと気づいたらしい。

「楽しみにしときな」

足を止めずにそれだけを言い残すと、あっくんは鼻歌を歌いながら歩いて行ってしまった。

「なんやもう、嫌な予感しかせえへんわ……」

あっくんを見送る修さんの口からこぼれた呟きに、私も「そうだね……」と同意を呟いた。


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