「テニスU-17日本代表の強化合宿」
幼馴染みが言った言葉を口に出して反芻してみる。何回かそうしてみたけど、その言葉の指すところの意味は全くわからない。「だからそうだっつってんだろ。お前日本語わかんねーの?」私の幼馴染みである”遠野篤京”こと”あっくん”はそう毒づいた。”あっくん”なんて呼び方、かなり幼稚だと自分でも思ってはいるんだけど、何せ物心ついた時から一緒にいたので、その呼び方が完全にデフォルトになってしまった。でも、とある事件をきっかけに、人前では”遠野くん”と呼ぶようになって今に至る。
まあ、そんな事はどうでもいいとして、テニスプレーヤーとして割と有名(たぶん悪い意味で)なあっくんは、あのプレイスタイルに輪をかけて態度が傲慢なものだから、当然、みんなからは敬遠されている。特に女子からの敬遠度は半端じゃない。男子は女子ほどではないみたいで普通に友達もいた。そうなってくると、必然的に女子で会話をする相手は私だけで、他の女の子たちはあっくんに近寄りもしない。あっくんに何か用事があると、私経由で彼に伝えられる。「伝書バトになった気分」前にあっくんにそうこぼしたら、「ハトっつーか、お前はスズメって感じだな。伝書スズメ」とバカにされた。ムカついたから引っ叩いてやったけど。
でも、女子のみんなの気持ちはめちゃくちゃわかる。私だって、赤の他人だったらあんな危険人物に関わりたいとは思わない。
「じゃあ、遠野くんそれに選ばれたって事? おめでとう」
私が素直に祝意を伝えると、あっくんはにやりと笑った。私の言葉に対してじゃない。たぶんもっと別の何か、自分の都合の良いようにしてやったぞ、という意味の笑みだ。
「そこでマネージャーの募集があったんだけどさぁ、お前のやつ書いて申し込んどいたから」
「は?」
「名前、学校名、生年月日、住所。志望理由は俺がテキトーに書いといた」
「は?」
「お前、推薦状に書ける事なんかしたい、って言ってたろ? ありがたく思え」
「え、遠野くんなんで勝手にそういう事するの?! 独裁者? ここ民主主義国家なんですけど!」
やっぱり、さっきの笑みはこういう意味だったんだ……!!
「確かに推薦状の事はそう言ったけど、私そんな大規模なものじゃなくって、」
「選考結果は明日出るから。楽しみにしてな」
私の抗議の言葉を遮って、一方的に会話を終了するあっくん。言い返してやろうと私が口を開いた時、無情にも始業のチャイムが鳴り響く。睨みつける私を見て、さっさと前向けよ、とあっくんは顎をしゃくった。その顔には絶対の自信が見てとれて、私は腹が立っているのと同じくらい、その顔の理由を不思議に思った。