義理チョコに沸き立つ男心

※短め
※現パロなのでカミラがヒノカを呼び捨てにしています。




「そう言えば……、今週はバレンタインね」


 カムイちゃんと、その親戚カミラさん、ヒノカさんとお茶をしている時に、カミラさんがそんなことをぽそりと言った。
 そうだったっけ、とカレンダーを見てみると、確かに今日は2月10日。四日後にはバレンタイン当日だ。興味がないわけではないけれど、あんまり意識していなかったからすっかり忘れていた。
 それは私だけではなくヒノカさんもそうだったらしい。やけにチョコレート菓子が多かったのはそういうことか、と独り言を呟いている。


「あらあら、だめよ二人とも。きっとあなた達からのチョコレートを待ち望んでる子は私以外にもいるわ?」
「とは言われましても……」


 そんな人本当にいるのかな、とネガティブな感情が浮かび上がってくる。別に世界中の誰も彼もから嫌われている、なんてことは微塵も思っていないけれど、だからと言ってそこまで好かれているような気もしていない。
 でも確かに、バレンタインデーの雰囲気は嫌いじゃない。甘やかな匂いも浮かれだった雰囲気も、平和を感じさせてくれるから好きだと思う。
 カムイちゃんはどうなんだろう、とそちらに視線を移す。普段通りににこにこと笑顔を浮かべて──ると思っていたのだけれど、そうではなかった。私の予想以上に、きらきらにこにこと私を見ている。


「……え、何、カムイちゃん?」
「ファーストネームさん……! 私、チョコレート見に行きたいです!」
「んー言うとは思っていたけれど……」


 人気者の彼女が誰かにチョコを渡す、となったら大騒ぎな気がするけれど、きっと彼女はそんなこと気に留めていない。むしろ、自分によくしてくれる人全員に感謝チョコレートを渡すくらいもしそう。
 それやったら大変だよと思ったけれど、彼女の楽しみを奪うのも何か違う気がしたから黙っておく。……いったいどれだけの人にチョコレートを渡すのだろうか。


「お金、あるの?」
「う……、か、カミラ姉さぁん……ヒノカ姉さぁん……」
「ふふふ……可愛いカムイのためならお姉ちゃん、いくらだって出してあげる。ねえ、ヒノカ?」
「ああ、勿論。ファーストネーム、お前も頼ってくれていいんだぞ」
「えっ、いや私は……!」


 あれよあれよと話は進んでいく。私は一応お金ちゃんとあるんだけど……、なんだからカミラさんもヒノカさんも、カムイちゃん──とついでに私──に甘いような。
 どうしたものか。ちゃんと断っておくべきなのは分かっているのだけど、口を挟む間もないくらいに話が先に進んでいく。気が付いた時には私以外のみんながお茶を飲み終わっていて、慌てて私もお茶を飲んだ。
 さて、と立ち上がったカムイちゃんが手にスマホを持っている。ちら、と見えた画面には、この近くにあるショッピングセンターのチョコレートフェアのお知らせが映し出されていた。







 バレンタイン当日。
 私はあの日カムイちゃんと一緒に買ったチョコレートを持って学校にいた。カムイちゃんはどうやら手作りをするみたいだけれど、私はそこまでする気力がなかったので既製品。……本命を渡したい相手がいるわけではないからしなくてもいい、と諦めたとも言う。
 つまるところ私が持っているのはすべて義理チョコ、というわけだ。一部友チョコもあるけれど、似たようなものでしょう。

 教室にいる男の子たちは目に見えてそわそわしているし、女の子たちはそれを意に介さずにチョコレートを交換している。
 本命……というか、カムイちゃんから感謝チョコをもらえたらしいジョーカーが咽び泣いているのも見えた。あと、フェリシアが持っているチョコレートがなんだか紫色の煙を出しているような気がするけど、それに関しては見えないフリを通そうと思う。
 そんな教室を自分の席から眺めていると、隣の机に人影。意識をそちらに向けると、そこにいたのはその席の主だった。


「よっすファーストネーム!」
「ああ、おはようヒナタ」


 バレンタインデーだというのに、いつもと変わらないからっとした笑顔を向ける男子がそこにいた。いや、バレンタインデーだからと言って何か態度を変えなきゃいけないわけではないけれどもさ。
 それにしたってヒナタはいつも通りだ。バレンタインデーを忘れている、と言われても納得してしまいそう。


「今日バレンタインデーなんだってな」
「あ、覚えてた……」
「ファーストネームお前、俺をなんだと思って……」
「いや、いつもとあんまり変わらないから……別にヒナタに偏見抱いてるわけでは」


 いいけどよ、と言う彼はちょっと拗ねているような気がする。思わず口を開いてしまったことに反省してしまった。申し訳ないな、という気持ちになった。
 せっかくだ。お詫び、というつもりで買ったわけではないけれど、ついでにお詫びも兼ねてしまおう。そんな軽い考えで、自分の鞄の中からチョコレートを取り出した。


「はい、これ。お詫びね」
「えっ、いいのか?」
「まあ義理だし……」
「そういうこと面と向かって言っちまうのかー」


 隠すようなことでも無いし、と付け足しても彼は笑顔になってくれた。こういう底抜けに明るいところは、ヒナタのいいところだと心底思う。
 ……なるほど、世間の人がチョコレートを渡す理由がほんの少しわかった気がする。こうして人が笑ってくれるのは、渡した側としても嬉しい。


「ありがとな、ファーストネーム!」
「……そ、そんなに喜ばれると罪悪感が……」
「いやいや、マジで嬉しいんだって。嫌いな奴にはチョコレートなんてあげねーだろ?」
「それはそうだけど……」
「はは。だから、ありがとな! お前に嫌われてなくてよかったぜ」


 そんなふうに笑って言うものだから、なんでか心臓がきゅっとなって思わず顔をそらしてしまった。なんで、と自分に問いかけるほど、私は鈍感ではない。
 ……義理だって、言ったじゃんか、私。



義理チョコに沸き立つ男心
(こんなことから恋が始まるなんて考えたこともないのに!)



2020.01.25 執筆
Title...ポケットに拳銃
Dear, My Doll.