すべてを照らす暖かなまなざし
……ここまでの話が俺とファーストネームの邂逅だった。今思うと、とても奇妙な縁だったと心底思う。
たまたま式典を抜け出して、たまたまあの場所で居眠りをして。たまたまファーストネームが俺を見つけて、たまたま俺を連れ帰って……。
エルトナと人間。普通に過ごしていたなら、出会うこともなかったはずの俺達。
そんな奴らが、今こうして過ごしているのは、やはり運命というべきなのだろうか。否、運命なんていう軽い言葉で片付けては駄目なのかもしれないが。
今日、ファーストネームとの出会いを思い返したのには訳があった。別に大きな理由ではないがそれでも俺にとっては大事な理由だ。
「兄上」
ぎぃ、と小さく扉の開く音がする。目線をそちらへ向けて見ると、そこにはめかし込んだエイリーク。まったく、今日の主役はお前じゃないんだがな。
苦笑いを浮かべるとエイリークが歩み寄ってくる。そして俺を見て、一言。
「曲がってますよ」
「……すまない」
苦手なんだ嫌いなんだ。正装なんてものは堅苦しくて動きづらくて仕方が無い。本当ならば今すぐにでも脱いでいつもの服になりたいというのに。
とは言っても、今日は着ないわけにはいかない。何故なら──
「しっかりしてくださいよ、兄上。ファーストネームさんの着替え、終わりましたから」
「!」
エイリークから紡がれた固有名詞を聞いた途端思わず駆け出しそうになったが堪える。気持ちばかり逸るが、今はそうするわけには行かない。
今は正装なんだ。普段でも走ったらゼトから小言が降るのに、今日走ったら降ってくるのは隕石だな。
ああでも、早く。
一秒でも早く、ファーストネームに会いたい。
「綺麗ですよ、花嫁姿のファーストネームさん」
エイリークに言われて、改めて実感する。否、遅すぎるのかもしれないが。
俺は今日――ファーストネームを家族に迎え入れる。
だめだと思いつつプロポーズしてみたのだが泣いて喜ばれた。「夜の営みはまともに出来ないよ、消えちゃうから」って言われた時には反応に困った。
……が、一応それも承知の上でプロポーズしたのだから問題無い。
あのえがおを、ひかりを。
ずっと隣で見ていたいと思ったんだ。
国民やエルトナにそれを伝えたときは驚いたな。緊迫状態に入ってもおかしくないと思ったのに、思いの外受け入れられた。
これもきっと、ファーストネームのまなざしが──。
「エ、フラム……」
「!」
まなざしが──……と、そこまで思案しようとしたら聞こえてきたのはか細い声。聞き間違えるはずがない、愛しい愛しい声。
ちょっと待ってくれ、まだ見る準備が出来てない、と拒む俺と、早くその姿を見せてくれ。と催促する俺。
相反する感情を抱えながらも──勝ったのは催促する俺のようだ。目をエイリークの向こう側に向けて、ハッとした。
「どう、かな……?」
恥じらいを見せながら現れたのは純白のドレスを纏ったファーストネーム。真っ白なそれはまるでファーストネームの白い肌と同化しているようで、オレンジの鮮やかな髪を際立たせる。
薄い半透明の羽も出されていて、エルトナであることを証明していあ。
「……れい、だ」
「えっ?」
「綺麗、だ」
「わっ!」
化粧が崩れるだとか服がよれよれになるだとかエイリークが見てるだとかそんなのは知らん。気づいた時には足が彼女の方へ向かっていて、思わず抱きついてしまった。
ぎゅっと抱き締めれば普段の彼女と同じ香りがして、あぁ、やはり目の前にいるのは、ファーストネームなのだ、と。
「え、えふらむ?」
「どれだけ惚れ直させたら気が済むんだお前は……」
「ええぇぇ?」
勝手に惚れ直してるだけなのになんて言い分だろうか。だが俺は悪くない。悪いのは日に日に綺麗になっていくファーストネームだ。
こほん、とエイリークがひとつ咳払い。
「兄上。早くしないとゼトに怒られますよ」
「……ちっ」
エイリークも悪くない。悪いのはゼトだ。いや、ゼトも悪くないのだが。婚礼の日くらい、大目にはみてくれないのか。
いや、そういや民が集まってるんだな、そういう訳にもいかないか……。……こういう時ばかりは自分の立場を恨む。
「舌打ちしないでください」
「ふふ……ほら、行こうエフラム?」
そう言って笑うファーストネームが、俺には太陽のように見えたんだ。
笑ってファーストネームの手をとって、俺たちはバルコニーへと歩みを進めた。
……ああ、さっき言おうとしたことだったな。ファーストネームのまなざしは──。
すべてを照らす暖かなまなざし
(俺だけじゃない、民全てを照らしてくれると、そんな気がしたんだ)
title…王さまとヤクザのワルツ
2015.08.23 加筆修整