ひかり、えがお、時々爆発
「兄上っ! いったい私たちがどれほど心配していたとお思いで……!」
「……というわけです。エフラム様、どうかお許しを。」
……まぁ、こうなることはだいたい予想していた。
ファーストネームの家に一泊した翌日、俺はファーストネームが使うワープの杖の力を使って帰城した。
帰城した直後目に入ってきたのはひどく不安げな顔をしたエイリーク。わざと明るく振る舞い声をかけてみればご覧の通り、ゼトとエイリークから大目玉を喰らった……というか、喰らっている。
俺を助けてくれたはずのファーストネームも何故か隣で正座をしている。ゼト達には帰ってもいいと言われたのに、ファーストネームは意外に律儀だ。
こういってしまえば高慢かもしれないが、命を助けてくれたファーストネームにも正座してもらうことになるのは宜しくないと思う。……だからといって、説教をやめろ、とは言わないが。
「兄上が式典にいなかったせいでっ、どれだけの人が困ったとおもっているのですか!?」
「あ、あの、本当にすみません、私が出すぎたことをしたばかりに……」
「いや、貴殿の心遣いには感謝している。外でエフラム様が寝られて、風邪をひかれても……」
ゼトは案外こういうところも気を使っている。ファーストネームの言葉に感謝の意を表せば少しだけ微笑むゼト。そういうところが若い女に言い寄られる秘訣なのだろう。大して興味はないが。
……ああ、ほとんど聞いてはいないが俺の動きはお見通しとでも言いたげにゼトの言葉が並んでいく。
……それほどまでに分かり易い行動をしていた俺も俺だが、そこまでいう必要はないだろう。
「その……元はと言えば、私がエフラム様を連れ帰らなければよかった話なんです。エイリーク様もゼト様も、お咎めならばエフラム様ではなくこの私に」
感心していいところかどうかはわからないが、見事なまでの土下座を見せる彼女から思わず目をそらした。俺のせいで彼女が土下座しているのだ、見ていて気持ちのいいものではない。
彼女の土下座を見て戸惑ったのは俺だけではない。ゼトも困惑を隠しきれてない表情をしていた。
「ですが……」
エイリークは渋る。……我が妹ながら、あの真面目には目を見張るものがある。
ファーストネームが此処まで言ってるのだから、そんなに当たらなくても……と、叱られている俺が言う資格はないのだろうと思うので、黙っておくが。
「兄上は貴女にも迷惑をかけたのですよ? エルトナは人に姿を見せない種族と聞いていますし……」
「そうなのか?」
聞いたらエイリークに睨まれた。……俺の妹は俺以上に王に向いていると思う。気迫というか、なんというか。
はぁー、と大きくため息をついたエイリークはですよね? とファーストネームに視線を移した。彼女のゆっくりとした頷きをみて、エイリークが口を開く。
「確かにそう伝えられています。太古に我々『人』から迫害を受け……それ以来、人へ姿を見せるのは戦の時のみになったとか」
「……はい」
再び苦笑いを浮かべたファーストネームは、まるで昔を思い出すように目を細める。美しい、というよりも儚いという表現が正しいのだろう、今にも消えてしまいそうな顔で、言葉を紡ごうとする。
遠くを見つめるファーストネームの目には、何が写っているのだろうか。
「私達から人の前に姿を出すことはほとんどありません。ですが、会ってしまうことはあります。……人が我々を迫害するためだけに姿を見せる者たちも。
……幾度も迫害を受けました。羽を持つという見た目を理由に、気持ち悪い≠ニ石を投げられ、蹴られ、羽根をもがれ、……捕らえられ。
……捕らえられた仲間は、暗闇に閉じ込められたり。母はそうして亡くなりました」
「…………」
何も言えない。言える訳が無い。
俺がしたとかしてないとか、そんなことは置いておくにしても……彼女の仲間を殺したのは俺達人だ。
ミルラもファーストネームも人ならざる存在で、本来ならば人と関わることもなかったはずだ。そんな彼女たちが俺達と出会う前は、いったいどれだけの迫害に合ってきたのだろうか。
俺達『人』には分からない。わからないが、わからなければならない気がした。
「そんなエルトナのファーストネームさんを外に出てこさせるなんて……」
「………………あぁぁもぅっ!」
突然の大声とともに、ファーストネームが爆発したように立ち上がった。しかも仁王立ちだ。
今さっきまでのおどおどとした姿はどこにもなく、凛とした顔でエイリークとゼトのことを見ている。
「あのね! エフラムは無事だったんだし私もこうやって外に出てる! それだけでいいでしょ!? それをいつまでもエフラムがエフラムがって! これは! 私が好きでやったんだから! 私が咎を負えばそれでいいの!! エフラムも言われてばっかでどうするのよ情けない!! そりゃ私が容易に関わっちゃいけなかったのかもしれないけれど……!!」
「…………」
再び何も言えなくなった。先程は『言ってはいけない』ような気がしたからだったが、今回は『気迫に押されて何も言えない』だ。
まさかファーストネームがこんな大声を出せるとも思っていなかったし、こんなにものをはっきりいえる奴だとも思っていなかった。
……俺の幻覚ではあるのだが、ファーストネームの後ろに竜が見える気がした。それくらいの気迫だ。
「……あっ」
何かに気づいたようにあわてふためく。そして慌てて正座をした。
どうした? と顔をのぞき込めばすごい勢いで土下座をする。待て、本当にどうしたんだ。
「すっ、すみません! 興奮しちゃって、ああもう私の馬鹿……!! 熱くなるとすぐ周りが見えなくなるんだからもう……!!!」
「い、いや、いいんだ」
色んな意味で驚いたがな。呆気に取られたようにゼトは若干引きながら笑っているが、まぁ、おいておこう。
エイリークは……エイリークも笑ってるな、別に怒ったりはしてなさそうだ。
「ファーストネームさん、今まで私たちの周りにいないようなタイプの方ですよね。仲良くなれそうです。そう思いますよね、兄上?」
「……えっ!?」
ちょっと待て、なんでそうなった。エイリークを慌てて見てみればくすくすと笑われる。慌てふためくファーストネームにこっそり耳打ちし、ガールズトークを始めてしまったエイリークとファーストネーム。
ゼトはそんな二人を横目に、ため息をついていた。
「……今回はファーストネーム殿に免じてお咎め無しにしましょうか」
ひかり、えがお、時々爆発
(案外気が強いと知った二日目だった)
title…王さまとヤクザのワルツ
2015.06.26 加筆修正