その姿だけで愛しい
朝というにはまだ少し早いかもしれない。雑に閉められた遮光カーテンの隙間から、チラチラと見え隠れする薄暗い空は、今がまだ夜明け前だということを告げている。
「左馬刻、」
月夜に照らされ、ぼんやりと写る人影はきっとわたしのよく知る彼だろう。
その見慣れた美しい銀髪に引かれるようにして小さく声を漏らせば、それに気付いた彼が優しく髪を撫でてくれたことに笑みがこぼれる。
「わり、起こしたか」
「ううん…おかえり」
寝起きのわたしを気遣うように、小さな声でそう言った左馬刻からは、いつもと同じ香水の香りに混じって、少しだけキツめの煙草の匂いがしていた。
おそらく、帰って来てすぐにベランダで吸っていたのだろう。
そのままこうしてわたしのもとに来てくれたことが嬉しくて、思わずもう一度「左馬刻…」と彼の名を呼べば、それに答えるように髪から移動した手が今度はするりとわたしの頬を包んだ。
もちろん、言葉にはしていない。そうして欲しいとは一言も言っていないのに。それでもいつもこうしてわたしの求めているものを与えてくれる。優しくて、温くて、大好きなその手に思わず頬を擦り寄せて笑えば、まるで確かめるように優しく頬を滑る彼の指がくすぐったかった。
「……あんま可愛いことしてんじゃねーよ」
「ん、」
「聞いてねーだろテメェ」
開いた瞼は、そばにいる彼の温度でまだ重くわたしの瞳にふたをする。
もったいないな。左馬刻がこんなに優しくわたしに触れてくれることなんてそうそう無いのに。それでも襲ってくる強烈な眠気には勝てそうになかった。
「#name1#」
「、ん」
「おやすみ」
だんだん遠のいていく意識の中で、かろうじて聞き取れたその言葉を最後に、わたしは再び瞼を閉じた。
ただそれでも、彼がずっとそばにいてくれたということは分かる。
だって、夢の中でもわたしはこの腕に抱かれて笑っていた。
#name1#、と優しく自分の名前を呼んでくれる大好きなその声に「なーに?」と振り向けば、そこにいる。見慣れた綺麗なルビーの瞳に、自分を写して笑うのだ。
「幸せそうな寝顔してんな…」
そして数時間後。登った朝日と同時に隣で眠る彼の姿を見て、今度は自分がそんなセリフを呟くのだった。
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