兎にヤキモチを妬く
朝からガチャガチャとうるさい玄関の音に首をかしげて、それまでパンツ一枚だった体に急いで落ちていた彼のシャツを羽織った瞬間だった。
「失礼しますよ。左馬刻、ここにいるのは分かっているんですからいい加減連絡を、」
「あ、やっぱりうさちゃん」
「おや」
おはよーと朝からくっきり眉間にしわを寄せた彼に言えば、一瞬ピクリと引き攣った口元を隠しもせずため息を吐く姿に、もう一度にっこりと笑って呟く。
「おはよう、銃兎さん」
「挨拶は結構ですのでさっさと下を履いていただけますか。目のやり場に困ります」
「そんなこと言って〜 ちょっとドキドキしたくせに〜」
「公然わいせつ罪で逮捕されたくなければ今すぐわたしの言う事を聞きなさい」
「もう、釣れないなあ」
これでもなんとか彼の来訪を察知して自衛した方なのだが、不十分だったらしい。わざとらしく視線を逸らしてそう言った銃兎さんが、不機嫌そうに腕を組んでトントンと指を鳴らす姿に、仕方なく奥のベッドで眠っている彼の方へ声をかける。
「左馬刻、」
「…」
「左馬刻起きて、朝だよ」
「、るせ…」
反応はくれるが、どうやらすぐに起きる気はないらしい。普段の朝なら別にそれでも構わないが、こと今日に関しては既に少しご立腹の銃兎さんが相手だ。気持ち良さそうに眠っているところ悪いが、ここは心を鬼にして彼を起こさなければと、その乱れた髪をそっと避けて耳元に口を近付ける。
「左馬刻、起きて」
「…」
「銃兎さん来てる」
「、あ?」
「じゅ う と さ ん」
「聞こえてっから、黙れ」
言葉と同時に、うっすら目を開けた彼がするりと目の前にいたわたしの後頭部へ腕を伸ばした。
それを見て、あ、やばいと思ったのもつかの間。グッと力任せに引き寄せられた頭を追うようにして倒れ込んだか体が、ベッドで寝ていた彼の腕にすっぽりと収まる。
「待っ、さま…」
「るせぇよ、」
「っ、」
「朝から俺様の前で他の男の名前呼ぶたぁいい度胸だなオイ」
「ちょ、」
無理矢理抱き込んだ腕の中で、そう言って近付いた首元へ噛み付こうとする彼のことをなんとか引き剥がそうとするも力及ばず。直後生暖かい舌の感触と同時に、ちくりと痛む首筋に肩が跳ねるのを抑えることは出来なかった。
「で?誰がなんだって?」
「、っ…」
「教えてくれよ#name1#ちゃん」
「っだめ…左馬刻、」
「あ?だからなんだって?」
「…ッ、」
ちゅ、ちゅ、と響く厭らしい音と同時に羽織っていたシャツの隙間から器用にも割って入ろうとする手をなんとか掴んだ。
これ以上は出来ない。さすがに下着一枚しか着けていない状態で万が一にも左馬刻にこのシャツを剥がされたらーーー後ろには銃兎さんがいるのだ。そんなこと、いくらなんでも恥ずかしすぎる。
「オイ#name1#こっち向け」
「…え、」
「いいから口開けろ」
「そんなっ、」
「良い子だ」
「ん、っん……」
目の前にあるその広い肩を押して、なんとか抗おうとするこちらの意思などまるで無視である。やめてと言って止まるどころか、むしろ先ほどよりずっと強引に重ねられた唇からすぐにその舌が割って入り、こじ開けられた口内はいとも簡単に彼によって支配された。
逃げようとすれば、それを許さないと言わんばかりに絡め取られた舌が音を立てて。何度も、何度も、角度を変えて唇を重ねられる度に響く厭らしいノイズが、まるで媚薬のようにとろりと溶けていく気持ちを加速させていった。
「…ん…ぁっ、」
「っはあ…」
「……っさま、とき、」
だめ。やめて。と言えるだけの理性はもうどこかに飛んでいたのだろう。面白いほどどろどろに溶かされた熱が体中を支配して、直後首筋に走る小さな刺激さえ、もはやある一種の快感だった。
「左馬刻」
「あ?」
「貴方も大概趣味が悪いですね」
「はっ、人の女のこんないい顔見といて言えた口かよ」
「わざと見せたのはそっちでしょう」
「あぁ、良い女だろ」
「そうですね」
「ぜってーやらねぇ」
最後に一度、ちゅと音を立てて口付けられていた唇が離れるのと同時に、体を包む温かい毛布が頭から被せられた。
「#name1#」
「ん、」
「寝とけ」
「…さまときは、?」
「うさポリ公の相手したらすぐに戻る」
「、いってらっしゃい」
「あぁ」
被った毛布の上から乱暴に手を置いて頭を撫でた後、それまで好き勝手していたのが嘘のように優しい手付きで開いていたシャツのボタンを一つ一つ閉めてくれる彼の姿に愛しさがこみ上げた。
「ありがとう左馬刻」
「おー 体冷やすなよ」
「うん、大好き」
「今そんな話してねーだろ」
「あ、照れてる〜」
「チッ このままここで犯すぞテメェ」
「銃兎さんいるのにそんなことしないもんね〜 左馬刻は。絶対わたしのこと見せたくないもんね〜 大好きだもんね〜」
「っ、このアマ…」
最後のボタンを閉め終わった左馬刻が、そのままわたしの着ていたシャツを引きちぎる勢いで引き寄せた。
もちろん、先にも述べた通りこれは彼の物なので例え破けようが千切れようがわたしの知ったこっちゃないのだが、それ以上に今はこのやり取りを見て本日何度目か分からないため息を吐いている銃兎さんのことを、いい加減気づかってあげるべきなのだろう。
「もう、そんなに怒らないでよ」
「あ?誰のせいだ誰の」
「わたしは何も間違ったこと言ってないでしょ。左馬刻が素直じゃないから」
「っせぇな、」
「分かったら早く行ってあげて。いい加減銃兎さん待ちくたびれてる」
名前を出して、その姿を指し示すように視線を向ければ、未だ納得がいっていないのか。ムスッと不機嫌そうに眉間にしわを寄せた彼が舌打ちを一つ。
それを聞いてやっと腕を離してくれるかと思いきや、直後グッと限界ギリギリまで寄せられた目鼻立ちの良い顔にぐっと息を呑んだ。
相変わらず、女のわたしから見ても羨ましいほどに整った綺麗な顔をしている。
「………#name1#」
「ん?」
「次俺の前でんな格好したまま他の男の名前呼んだらブチ犯すからな」
ちゅ、と彼にしては珍しい触れるだけのキスを最後に、ゆっくり離れていったその背中を思わず掴みたくなってしまったのはわたしだけの秘密だ。
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