おはよう
朝は嫌いだ。眠ることでリセットされた全てを、またやり直さなければならない。
「おはよ#name1#ちゃん」
「……ん、」
「もう朝だぞ。また寝坊か」
心地良い微睡みの中、聞こえてきた声に起きるのは嫌だと背中を向ければ、もう一度#name1#ちゃん、とわたしの名を呼ぶ優しい声が聞こえた。
「そろそろ起きねーとまた左京さんに怒鳴られっぞ」
「……」
「聞こえてんだろ」
「…ん」
「はあ…仕方ねぇな。ちょっと大人しくしてろよ」
「、……」
「よ、っと」
「……」
「はよ、#name1#ちゃん」
「…ん、はよ」
いつかのように、わたしの脇に差し込まれた腕がいとも簡単に寝転んでいたその重い体を起こした。
顔を上げれば、そこには普通の男の子より幾分か長い髪を後ろで緩くひとまとめにした朝から色気の大爆発を起こす彼。
「朝から刺激強い、」
「なんの話だよ」
「別に。こっちの話」
寝起きでぼーっとする頭をなんとか覚醒させようと、思い返せば昨日は確か初めての地方公演が無事成功し、寮に帰るなり大人組で深夜まで飲み明かしていたことを思い出す。幸い頭痛や吐き気などの症状は無いが、いつもの数倍体が重いのは致し方のないことだろう。わたし以外の団員たちの体が心配である。
「この後は本格的に春組の方着くんだろ」
「ん、」
「はあ…まーだ寝てんのかよ」
のそのそと起き上がり、半ば引きづられるようにして目を覚ましたわたしの髪を優しく耳にかけてくれる万里くんは、そう言ってやれやれと仕方なさそうに笑った。
いったいどっちが年上なんだと自分でも呆れたくなる様なこのやり取りも、もはや最近ではこの寮の恒例だ。
低血圧で非常に寝起きの悪いわたしと、あんな見た目に反して実は案外面倒見の良い万里くんは、なかなかに相性が良いらしい。
これはある日談話室で一日中寝こけて誰が声を掛けてもビクともしなかったわたしが、唯一彼に起きろと言われた時にだけ目を覚ました。という不思議な出来事を目撃したいづみが言い出したらしいのだが、もちろん当時寝ぼけていたわたしにその記憶はない。まあしいて言えば確かに寝起きで彼の顔を見ることは多いな、という程度だ。しっくりは来ない。
「万里くん学校は、?」
「振替休日。休み」
「……」
「おーい#name1#ちゃん、生きてっかー?」
「万里くん、」
「ん?」
「なんか良い匂い…」
向かい合った万里くんが、そう言ってクンクンと鼻を鳴らすわたしの姿を見てから、あぁ、と思い出したように声を上げた。
「それ多分香水」
「?でも万里くんがいつも使ってるのと匂い違う、」
「なに?嫌な匂いだった?」
「ううん、良い匂いって言ったじゃん」
好きだよ、とこの良い香りの元である万里くんの頬をするりと撫でながら言えば、余程驚いたのだろう。一瞬ポカンと停止した動きは、それでも徐々に赤くなる頬と同時にゆるゆると視線を逸らすことで再開を始めた。
珍しい。どうやら照れているようだ。
「は〜〜 #name1#ちゃんずっる、」
「ふふ、万里くん顔赤いよ」
「うっせ、確信犯だろ」
「うん。可愛いね、万里くん」
「っ、」
いつも余裕そうな彼の、こういった年相応な反応を見るのが楽しい、と言えばまた怒られてしまうだろうが、それでもこればかりはなかなかやめられそうにない。
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