本能で警戒する


「#name1#さん」
「はい」
「隣いい?」
「どうぞ」


入団するならぜひ、と即日速攻で開かれた歓迎会に二つ返事で参加を決めたその人は、愛想の良い笑顔で断りを入れてから中庭のベンチで座っていたわたしに、ありがとうと呟いた。


「手先が器用なんですね、千景さん」
「あぁ、見てたのか。さっきの」
「少しだけ」
「慣れれば簡単だよ。きっと君にでも出来ると思う」
「そうですか」
「やってみる?」


得意げに上着のポケットからコインを取り出した千景さんが、そう言ってわたしの空いていた手にコインを乗せた。


「せっかくですけど、そういうことなら太一くんやカズくんに教えてあげてください。その方が喜びますから」
「そう?釣れないなあ」


月の光りに反射して、キラリと光るそのコインを本来の持ち主である彼の手に返そうとした時。ガサガサ、と目の前の植え込みから不自然な音が聞こえた。


「……?」
「あ、#name1#だ〜」
「……」
「三角くん…と密さん?」


まるで猫のように、その植え込みから這うようにして出てきたのは、三角くんと密さんという、普段から庭に出て遊んでいることの多い二人だ。
その頭や体いっぱいに木の葉や草が付いているということは、大方また室内の宴会に飽きて外に出てきたのだろう。


「も〜 三角くん顔」
「え〜 なーに?」
「泥付いてる」
「ほんとに?」
「ほんとに。こっちおいで」
「はーい!」


のそのそと出てくるなり、言えば元気よく返事をしてこちらへ走ってくる姿は、相変わらず女性の母性本能をくすぐる天才だと思う。


「あ、千景だ」
「どうも」
「#name1#と二人っきりになると至に怒られるよ〜」
「へぇ、それは怖いな」
「全く思ってなさそうですね」


顔に泥を付けたまま、ニコニコと笑いながら話す三角くんの頬を、持っていたストールの端で拭いていく。もちろんその間もジッとしていることなど出来るはずもない彼の視線は、アッチに行ったりコッチに行ったり。とにかくいつも忙しない。


「今日は密さんと何してたの?」
「脱獄ごっこ!」
「それはまた、」
「なかなかスリリングな遊びをしているんだね」


聞けば、中庭に住みついた数匹の猫を看守に見立て、その子たちから見つからないよう逃げていたらしい。理由は言わずもがな。お腹いっぱいになって遊びたくなっちゃったから〜らしい。


「はい終わり。綺麗になったよ」
「ありがとう#name1#!」
「どういたしまして。密さんも、」
「俺はいい」
「そう?」
「うん、ありがとう」


チラッとこちらを一瞥してから、まるで避けるようにそう言った密さんは、いつもと少しだけ雰囲気が違うような気がした。
いつもなら、おいでと声を掛ければどんなに眠そうでも一応近くに来てくれるのに。今日はそれほど疲れていたということだろうか。


「#name1#〜」
「ん?」
「えへへ」
「え、」


去っていく密さんの背中をボーッと見つめていたわたしの足下。何故かそこでベンチから投げ出された両脚にぎゅっと抱きついていたのは、三角くんだ。


「……?どうしたの」
「ん〜 なんでもないよー」
「、そう?」
「うん!」
「……?」
「………」


なんでもないと、そう言って笑った三角くんが直後目を逸らしたわたしの隣で、ジッと自分のことを見つめる千景さんに、鋭い視線を向けていたなんて知るよしもなかった。

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