「ちせにい、ちせにい」
「ん?どうしたの」
「きょうね、森にはいったらね、お姫さまがいたの」
「......おひめさま?」
「お姫様がね、おおきな箱の中にねむってたの」
「箱に眠ってた……?そうなんだ……?」
「ちせにい」
「なあに?」
「お姫さま、きょうも眠ってた」
「そっかあ」
「どうしたらおきてくれるかな」
「うーん、そうだねえ…
ずっと待っていてあげれば、いつかは起きてくれるんじゃないかな」
「!わかった、僕、待ってる!」
「お姫さま、おはよう」
「きょうはね、絵本を持ってきました!」
「はこの中で眠ったままは、つまんないでしょ?僕が絵本よんであげる!」
「これはね、狼と海の子っていうお話で、――」
「今更だけど、きぃくんの言うお姫様って、
聞く限りじゃあ __ じゃなさそうだけど……」
「妖精か精霊が森にいたのかな……行く前は一言いってねって注意したけど......」
「......お兄ちゃん、選択を間違えたかもしれない」
「ううん、心が痛む......可愛い弟を尾行するなんて。
でも、森の中にお姫様だなんて、流石にお兄ちゃん心配になっちゃうよ.....」
「道なき道をすいすいと歩いていくなあ……子供ってすごい、
ついていくのが精いっぱいだよ」
「あれ、森、を抜けそう……?」
「......ここ、は」
「うわあ、なんだろう...城壁、の一部?この大きい柱に刻まれた紋様、どこかで見覚えが……」
「足元に瓦礫がいっぱいある、きぃくんこの中を歩いていったの......?! 危ないよ?!」
「なん、とか、追いついた......
大きい木の根っこに掴まりながら下に降りていった時は、どうしようかと......」
「ここは、根の隙間から太陽の光がさしてるのか。通りで明るい......あ!」
「もしかしてあの、日が当たってる箱が、例の......」
「きぃくんがいない今のうちに、そっと…...」
「っ」
「う、わ......え……?
...人形......?」
「綺麗だな......凄く精巧な作りしてる、けど―――」
「――ぁ」
「ち、がう......これ、人形じゃない」
「死んでも、いない」
「これ、は、生きて―――」
「――ちせ兄?」
「うわああああ!」
「わあああーー!」
「びびびびっくりした......」
「僕はちせ兄の声にびっくりした......
なんでここにいるの?」
「う......ごめん、心配になって、ついてきちゃった」
「ふーん」
「ね、お姫さま、きれいでしょ!」
「ぁ......うん、そうだ、ね」
「毎日お花をもってきてあげるんだ。あとね、絵本も読んでるの」
「......ね、きぃくん、今日はもう帰ろう?」
「えー、なんで?」
「今日は雨が降るらしいから、ね?お願い」
「うーん....わかった」
「お姫さま、ばいばい」
「...」
「きぃくん」
「なーに」
「明日から森に行くの、やめよっか」
「...なんで?」
「瓦礫とか沢山あって危ないでしょう?怪我しちゃうよ」
「僕怪我したことないよ」
「でもダメ。危ないの」
「......やだ」
「...キィザお願い、言うこと聞いて」
「いやだ!」
「あっ、まって、キィザ!」
「いやだ、いやだ、いやだ......!」
「ちせ兄のばか...分からず屋...!」
「うっ、うう」
「......いいもん、
お姫さまに、絶対会いに行くから...!」
「はあっ、うう、雨が...っ」
「遅くなってごめんなさい、お姫さ―――」
「――え、」
「あー!僕のばか、ばか、ばか......!
もっとよく考えてれば、こんな雨の中きぃくんが外に出ることもなかったのに......!!」
「おまけにきぃくん熱まで出ちゃって、ほんと僕の馬鹿...」
「...でも、どうして、さっき、」
「きぃくんと見た、あの箱――」
「―――中に、誰もいなかった。」
熱が下がった時には、キィザはあのお姫様のことを全部忘れていた。
ぽっかりと記憶に穴が空いたように、最初から最後まで、何もかも。
僕はそのままでいいと思ったから、何も言わなかった。
なんだか思い出させてはいけない気がして。
でも、人生って不思議だ。
――あの時のお姫様に、また出会ってしまうんだもの。