静が暗に何か核心的な事を言おうとしている。
俺は一般人の相槌をしつつ、それを聞くことにした。
向こうの状況までは分からねえが、どうやら警察官である俺に連絡していることは周りには知られたくねえみたいだしな。
つーか、電話の向こうの話し声なんて周りには早々聴こえるモンじゃないが…念には念をでここまで用心してんのか?買い物に来たか何だかでたまたま鉢合わせたところに人質として捕まってるとして、そんな"たまたま"の偶然で要注意人物が周りに居るとは思えねえが…。
まぁ色々ツッコミどころはありまくるし、今すぐにでも取っ捕まえたいところだがそれは叶わねえ。
一回頭ン中リセットしてとりあえず聞いてやろーじゃねぇのと意気込んだ…
のだが、
『ずっと電話出れなくてごめんね。今ちょっと色々あって閉じ込められてるんだ』
「ッと!?ハァ!?」
構えていた筈なのに予想以上のパワーワードが聞こえてバカみてえに素っ頓狂な声が出た。おいこれ何のデジャビュだ?
『あのね、訊きたい事いっぱいあると思うけど…』
「マジかよ…」
『ねえ聞いてる?』
「聞いてる聞いてる…」
『とりあえずその場所を言うから今直ぐ警察に通報してくれない?』
「ッあ〜〜…、もういい分かった。んで?何処なんだよ?」
『東都デパート米花店の3階、レディースフロアの従業員スペースにある一番奥の倉庫』
(東都デパート!やっぱり此処に居やがったか…!)
いや、それよりも、だ。
もっと具体的な場所が出てきた。
静は今、倉庫に居る。
犯人に脅されて人質にされた挙句、終いには倉庫に閉じ込められたってところか…。
そしてその倉庫があるのはレディースフロア。その場に居る買い物客の大半はきっと女。フロアに居た客は静と一緒に閉じ込められている筈だ。
つまり、今あいつの周りに居る他の人質の多くは女。だから女のフリしてんのか?いや、それだけじゃ理由として薄いか…。今じゃ男だの女だのでファッションを区別する時代じゃねえし、レディースフロアに男が居てもまあ浮く可能性はあるがよっぽど怪しい見た目じゃない限り不審には思われない筈。ましてやあいつは普段からそこら辺の男よりはかなりマシなというかバリバリオシャレな格好してやがるし…
『え、もう通報したの?』
「!」
少し黙って考え込んでいた矢先、静のハッキリとした声で奥深くに潜んでいた意識が戻る。
通報するもしないも、そもそも通報先の人間が俺な訳で。敢えて他の奴らから離れるために移動した俺の周りには勿論誰も居ないし、ましてや俺以外の声が静に聴こえる筈はない。
何やら意図があって静が嘘の会話を作り上げている。通報が終わったというテイにして、話を次の段階へ進めるつもりか?
「…あぁ、通報したぜ」
『早いなぁ〜、助かるよ。巻き込んでごめんね。私以外にも捕まっちゃった人がいるから…、とにかく早く助けたくて』
「んなモン気にしなくていい」
『ふふ、…ありがとう』
一方的に静が話したい事を言ってくるかと思っていたが、どうやら軌道上の会話はしてくれるらしい。
上手いこと会話しながら少しでも多くの情報を引き出して向こうの状況を把握しねえとな…。
「つーか犯人はそこにいるのか?居ないよな?」
『居ないよ。捕まってる人達だけ。私達を此処に閉じ込めたきり戻っても来ないし…うん、多分大丈夫。戻ってこないと思う』
(見張りが居ない?どういうことだ…)
そもそも犯人がその場に居合わせてないからこそ、今こうして連絡が取れている訳だが…まさか見張りが居ないどころか、一回も様子見にすら来ないとは思っていなかった。
妙だ。
なーんかヘンな感じがしやがる…。
(犯人の目的は何だ?)
建物真ん中の階にある見通しのいい広場とその上の階にある従業員しか入れない奥の倉庫。わざわざ客を距離がある二か所に分けた上、そのうちの片方を人質だけにする理由は何だ…?