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揚羽蝶のルキは青いあおい大空を羽ばたいていた。
湖を過ぎ、森を抜けて建物の間を抜ける…いつの間にか見知らぬ街にたどり着いた。

『はじめてきた…』

彼らは、人間には解らない言葉を使う。
昆虫界にだけ通じる言葉だ。

『きれいなばしょは、あるのかな?』

新たな場所に心弾ませるルキは、羽ばたく先に蜘蛛の巣が張り巡らされている事に気付いていない。

『(ごくじょうのえものだ)』

『きゃっ…!』

見事に蜘蛛の巣に絡まり身動きができなくなったルキ…。
昆虫界は弱肉強食…強いものだけが生き残っていくのだ。
蜘蛛はルキを己の毒を纏った糸でぐるぐる巻きにして弱らせてから食べようと楽しみにしている。

『(…くもにたべられてしまうの?)』

ルキがこれで終わりかと泣いていると、蜘蛛の糸と糸の間から地上が見えた。

「お前みたいな奴はカスだ!」
「カズマのくせに生意気なんだよ!」
「何だ、その目は!!」

1人の少年を数人の男が袋叩きにしていた…。

『いたい…?くるしい?』

ルキは傷付きながらも男達を睨み続ける少年に何故だか目を奪われた。

『ねがわくば…あなたが“幸せ”になれますように……』

ルキが願いを唱えると、そのまま毒に殺られて息を引き取った。

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