5、笑う君の頬に…

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あなたが必死に、私の名前を何度も何度も呼ぶから...あなたに呼ばれるのが嬉しくて。
あなたに逢いたくて、私は目を開けたの。

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海から吹く風がカーテンを揺らして部屋の中に入ってくる。いつも君が毎朝、寝起きの悪い僕を起こすために開けていた窓。
今日もまた、僕が開けた。いつの間にか、これが僕の日常になりつつある。

「僕は、この窓は、君が僕のために開けてくれる窓がいい...」

開けた窓から僕は視線を後ろのベッドに眠る君にむけた。君が僕の隣で笑って、その可愛い声を僕に...。

「君はもう、僕のために笑ってくれないの?」

毎日毎日、何度も何度も君に問いかける。
でも君は、この問いに、僕の言葉に答えもほんの少しの反応さえも返してくれない。
そう思って僕は君から目をそらして、君に背中を向けてベッドに座った。

「あなたの背中はいつも頼りない」

え?ずっと聞きたかった君の声が聞こえた気がする。でもこれは僕の願望がみせる幻聴だろうか。
僕は怖くて、後ろに振り返る事ができない。

「本当に紘樹って弱いし、泣き虫だよね?」

ヘタレだし、と付け加えられた言葉は僕の耳元だった。頼りないと言われた僕の背中は、少し重いと感じる。
肩にのっていた手は、いつの間にか目の前を上から下に動き...気が付けば、君に後ろから抱き締められていた。

「...キ...本当にルキ?」

そう聞きながら首から上を君に向けて、本当にルキが起きているのか、幻覚ではないのかと確かめる。
目の前には僕を笑う君の顔...僕を小バカにして、からかうように可愛いといつものように君の顔に書いてある。

「私以外に誰がいるの?それとも、私が寝てる間に浮気でもしてた?」

そんなこと、僕にできるわけない。だって君をこんな状況にした原因は弱い僕で、君がこのまま起きなくて君がいなくなってしまうんじゃないかと泣いて怖がってたのは僕だから。
ああ、目の前には待ち望んだ君がいる。ちゃんと君の声がきけて、閉じられてばかりで見ることができなかった空色の瞳を見ることができている。

「ルキっ...僕をもう1人にしないで!!」

君が起きてくれたことが何よりも嬉しくて、僕は勢いよく君に抱きついてベッドの上に押し倒す。
僕の好きな君の白い肌は青白いままで...それでもいつの間にか泣いているのを隠すように君の胸に顔を埋める。
大好きな君のにおい。大好きな君の柔らかい胸。傍にちゃんといてくれていると安心できる。

「また泣いてるの?本当に紘樹は...」

“可愛いね★”と君は僕の頭を撫でて嬉しそうに笑う。そして“ごめんね”と続けられた君の言葉は僕の心を締め付ける。
それでも僕は弱い自分を許せなくても、こんな僕のところに戻ってきてくれた君を許すから。

「もうどこにもいかないで...君をはなしたくない」

「はいはい、私も紘樹が大好きだから...」

ーーー“あなたをはなさないよ★”

必死な僕に呆れたように、まだ泣いている僕を安心させるように君は衰弱した体の弱さを感じさせない笑顔を僕に向けている。
僕はそんな風に笑う君の頬に...涙を拭ってからキスを落とした。

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