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時間は流れ、私は魔王であるヴァイスに気に入られて、いつの間にか彼を...。


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人間用の城、今はルキア以外に誰も人間がいないためルキア専用の城となっている。2階の、あの寝室はルキアの部屋となった。
ルキアは毎日を城内にある大きな図書館の本を読みあさったり、時にはヴァイスの気まぐれに付き合い、勝手に何処かへ連れまわされたりして過ごしていた。

「魔族の持つ“魔力”と、人間の中で選ばれた者のみが持つ“霊力”...確か昔に村にも“巫女”がいたって...」

ぶつぶつと一人言を言いながら、ルキアは自分の上半身ほどある本を自分の部屋のベランダで読んでいた。
すると突然に、太陽の光が遮られたかと思うと、強すぎる風が吹き荒れた。ルキアは慌てて読んでいた本から手を放して、必死にベランダの柵にしがみついた。
読んでいた本も、部屋の中に積み上げていた本も...カーテンが舞い、雑貨もすべてが舞い上がって散乱する。

「ルキア、本など読まず我の相手をしてほしい」

低く唸るようなヴァイスの声。人間用の城の外壁の外側に、大きな大きな魔王の姿。今すぐにでも喰べられてしまいそうな彼の牙がルキアの目の前にある。

「ヴァイス...あなたは私を吹き飛ばして殺す気なの?」

何とも言えない、呆れた感じのルキアの目。
彼の大きすぎる口からの息に、ルキアの髪が勢い良く舞い上がる。

「そんなつもりは無い。ルキア、前から聞きたかったのだが...我が来るとどうして機嫌が悪い?」

我が嫌いかと、ヴァイスはさらに顔を...否、大きすぎる牙がルキアに近付いてくる。
そして、ヴァイスが動けば必然的に強すぎる風がルキアを襲う。慌てて掴んだままだったベランダの柵を必死に握り締めた。

「...............」

そして、さらに呆れた色を映すルキアの瞳。
毎回ヴァイスが来る度に吹き飛ばされそうになっていては命がいくつあっても足りない。それに、ルキアはこの事態を理解できていない彼にもう怒る気すら起きない。
失礼だが、魔族は馬鹿なのかと疑ってしまいそうになる。

「お願いだから、人間の姿で来てくれる?」

少し怒りの混じった声色で言い、ルキアはヴァイスの大きな顔に手を伸ばして撫でた。
肌触りはあまり良くない、強いて言えば爬虫類を触っているようだ。

「お前が言うのなら、仕方あるまい...」

彼ら魔族は人間を下等だと見下している。そのため人間の姿になってくれなど、今まで恐くて言えなかった。
だが、何故かあの魔王と仲良くなった今では恐くない。何気にルキアの言うことは嫌そうにしながらも聞いてくれるのだ。

「これで良いか?」

ベランダに降り立った漆黒を纏う青年。
良く見ればすごく綺麗な顔をしているし、格好良い。なにげにルキアの好みである。

「うん。でも私のところに来るときはいつもその姿で来てほしいんだけど」

ルキアの言葉にとても嫌そうな顔をしたヴァイス。そして無言で、怒ったようにルキアを強引に横抱きにすると部屋の中に入った。

「ヴァイス?」

やっぱりマズかったかと、不安になったルキアは必死に謝罪の言葉を並べた。
そんなルキアにさびしそうな視線を向け、ヴァイスはルキアをベッドの上へと優しく投げた。

「お前はまだ我が恐いのか?この魔王として君臨している我が!」

重圧を感じるヴァイスの声にルキアは震えて身をすくめた。
そして自分の隣にドスンと座り、近付いてくる彼の手に両目を強く閉じたルキア...。

「我はお前に心奪われているというのにな...」

え?と思った時には、ヴァイスはルキアの綺麗な黒髪を愛しそうに指ですいていた。
身をすくめていたルキアは、事を理解するのに時間のかかった。ルキアの顔はだんだんと赤く染まっていく...。

「あなたを恐くないと言えば嘘になる。でも、私は前みたいには恐がってない」

ルキアの言っている意味が分からず、ヴァイスは髪をすいていた手を止めて訝しげにルキアを見詰めた。
そんな彼に嬉しそうに笑うと、ルキアは続けた。

「それに、さっきの人間の姿になってほしいって言ったのは大きさ的な理由からだから」

ルキアの言葉に、ますます意味が分からないという顔をするヴァイス。
やっぱり分からないのかと、ルキアはこの時彼を心の中で静かに“うん、やっぱりバカなんだ”と認定した。

「おい、ルキア。我を馬鹿にしているだろう」

顔が笑っているぞと彼に指摘され、ルキアは楽しそうにヴァイスの首に腕をまわした。

「私ね、いつの間にかヴァイスのこと好きになってたみたい」

ヴァイスはルキアの言葉にニヤリと笑みを浮かべて、自分のものだというようにキスをして強く抱き締めた。

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