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城の中庭。ルキアは1人、綺麗に整えられた庭を見ながら自分はいつ魔族に喰べられて死ぬのだろうと...そればかりを考えていた。

「ルキリア、私もあなたのところに...」

ここにいない歳の離れた従姉のルキリアに助けてと、ルキアは両手を願うように組んで呟く。
いくら太陽村の、人間のためとはいえ...魔族に喰われて死ぬ準備などできていない。それにこの前自分の相手をしろと、襲われそうになった魔王がとても恐い...。
いつの間にかルキアの視界は歪み、涙が頬を伝い落ちていた。

「...リア...ルキリア...!」

突然に太陽の光が遮られたかと思うと、強い風が吹き荒れた。
風に体を持っていかれそうになり、ルキアは慌てて近くにあった城の柱に手を伸ばした。すると上から聞こえる複数の低い声。自分の知る、魔王 ヴァイスの声ではない。

「ひっ...いやぁ!」

獲物を狙う、肉食獣の鋭い瞳が上からいくつもルキアを見下ろしている。今にも人間の肉を喰いたいと、良い獲物を見付けたと彼ら魔族はその赤い色の瞳で語る。
ルキアは彼らから逃げるように城の柱の後ろに隠れた。

「これはなかなか上等ではないか?」

「あの巫女のいた村の人間は美味い」

上から聞こえる声達に、ルキアは本能的な恐怖を感じている。自分より遥かな強者に弱者は成す術がない。どうしたらこの場から生きて帰れるだろうか...。
ルキアが動くことも声をあげることもできずにいるともう1体、今まで集まっていた魔族達よりも1回り大きな魔族がとても静かに降り立った。

「ルキアはお前達が喰って良い人間じゃない」

静かだが、とても威圧を感じさせる声。ルキアはその声に聞き覚えを感じたが、良く分からない。
彼ら魔族達の間でやり取りされる会話。ルキアはずっと怯えながら柱の陰に座り込んでいた。

「早くヴァイスに喰われれば良い。そうすればこんな面倒な事はしなくてすむ」

いつの間にか魔族は1体だけになっていて、彼はそう言い残して何処かへ飛び立って行ってしまった。
来た時と同じように、彼だけは風をたてずにとても静かに動く...まるで、それが当たり前のように。

「...............」

ルキアは訳が分からずに、その場に座り込んだままだった。
ぼーと空中を見詰めていたルキアの前へ突然に降り立った1つの人影。
さっと漆黒がルキアの目の前をおおった。人間の姿をしたヴァイスだ。

「クーファッシュが人間の姿でルキアのもとへ行けと五月蝿く言うのでな」

来てやったぞと、ヴァイスは軽々とルキアを抱き上げて宙を浮いた。
ルキアが現実に戻ると、ヴァイスに横抱きにされて城の遥か上空にいた。あんなに大きいと思っていた城が小さく見える。

「え...!?」

ルキアが慌ててヴァイスにしがみ付けば、上から笑い声が聞こえた。

「お前が望めばもっと上に行くぞ」

悪戯っぽく言われ、ルキアは慌てて首を横に振った。そんな心の準備はできていない。
まあ良いとヴァイスは言うと、また我の相手をしろと言い出して地上へと降りていったのだった。

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