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人間用の城でいつものように過ごしていたルキア。庭に出て本を片手に紅茶を楽しんでいた。
すると、突然いつものように強い風が吹いた。ヴァイスがルキアを訪ねてきたのだ。
相変わらず魔族の姿で来ている。
そのため、魔族の有する能力...通称“魔力”を魔王自らにふるってもらい、この人間用の城をどんなに壊しても荒れさせても自動的かつ瞬時に元に復元するようにしてもらったのだ。
そのためもう吹き飛ばされる心配もいらない。

「毎日のように来るのに、3日ほど来なかったけど...何かあった?」

ルキアが何となく聞くと、ヴァイスは瞬時に人間の姿をとって庭に下り立つとその場にうずくまった。
何事かと良く見れば、ヴァイスは傷だらけで...いつも漆黒しか纏わない彼が、己れの赤を服に滲ませている。

「ヴァイス!?」

慌てて本を投げ出して彼に近寄れば、汚れると手で制された。それどころではない。
ルキアは彼の傍で膝を地面について不安そうな顔でヴァイスを見詰めて問う。

「何でそんな傷だらけなの!?」

「何でもない、気にするな」

そう言いながらヴァイスは傷の痛みに顔を歪めた。彼のいる場には赤い水溜まりが出来つつある。
こんな状況を見せられて気にするなと言うのには無理がある。ルキアは事の次第を聞こうと口を開いたその時、この城の外壁の外で聞き慣れない爆音がいくつも聞こえた。

「くそっ人間共め!こんな所まで...」

ヴァイスは毒つくと傷だらけの体でルキアを抱き上げ、地を蹴り上空へと浮いた。
ルキアが理解も何もできないままヴァイスの腕に収まっていると、城の外壁を崩し、大砲や長銃の様な武器で魔族を攻撃する無数の人間達の姿が見下ろせた。
すると、長銃の銃口が静かにこちらへ向いた...。

「うっ...巫女と同じ白の能力を持つ者が多すぎる」

長銃の弾はルキアを全く傷付けず、ヴァイスだけを傷付ける。彼の赤い色が、密着しているルキアの服を染めあげていく...彼の頬に手を触れれば、大丈夫だと言いながらも痛みに顔を歪めている。

「ルキア、お前だけでも逃げろ...純粋な魔族はこれで滅ぶ」

「え?どういうこと!?」

ルキアには意味が分からない。
そんな愛しいルキアに、(純粋な)魔族最期の魔王 ヴァイスは笑った...。

「ねえ、ちょっとヴァイス?」

何だか計り知れない不安を感じ、ルキアはヴァイスを必死に呼ぶ...まるで“さよなら”を言われている気がする。

「エヴィル、ルキアを連れて行け!」

そう言ってヴァイスはルキアを投げ飛ばした。いきなり投げ飛ばされたルキアを抱き止めたのは宙に浮いていた太陽村の長である。

「ヴァイス、もっと丁寧に扱うのじゃ!この戯けが」

「おじい、さま...?」

何故ここに人間であるはずの長がヴァイス達の様に宙を浮いているのか全く理解できないルキアに対して、長はいつもの良く知るシワシワの笑顔を浮かべている。
すると魔族の姿でクーファッシュが近くに来て言った。

「エヴィル、邪魔なんで早く行ってください」

クーファッシュの言葉にうなずくと、長は2人にここは任せたぞと言ってルキアを連れて器用に攻撃を避けて戦線を離脱していった。

「お前は逃げないのか?クーファッシュ」

ヴァイスの言葉をクーファッシュは笑い、答えた。

「愚問です。生きていてもルキリアはもういない...この星に生きる価値など見いだせない」

クーファッシュの哀しそうな表情にヴァイスはそうかとだけ言うと、瞬時に魔王としての顔をして、姿を魔族に変えて君臨した。

「愚かな人間共め!我は魔族の頂点に君臨する魔王ぞ。」
















 ̄ ̄ ̄ーーー_____

ヴァイスの、魔王としての声が聞こえた...。

どんなにあなたを呼んでも、あなたは私のところに来てくれることはなかった。



そして、魔族は滅びたと...

この星の人間達は皆

喜びに満ち、これから安心して暮らせると安堵していたのだった。

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