pinky

三月。三月と聞くと春、という気がするのに、吹く風は冷たくてたまらない。セーターから覗く手は赤くなっているし、きっとマフラーから覗く鼻も、トナカイのようになっているのだろう。はあと息を吐いて手を暖めるけれど、それも一瞬だ。
こんな時、隣に春市くんがいると「なまえちゃん、いつも手袋忘れるよね」と笑って片方の手袋を貸してくれる。そうして裸になった方の手と手を繋いだ時に見る、春市くんの照れた横顔が好きだった。

昔から私はピンクと呼ばれる色が好きで、今しているマフラーもピンク色を選んでいる。花だってピンク色の花が好きだし、入学式の時は決まって気分が良かった。桜色に包まれて見守られて、うきうきした気持ちで校門をくぐったのを覚えている。そこにいたのだ、春市くんは。私の大好きなピンク色の髪を揺らして、頬をピンク色にして。桜の下で見た春市くんはとても綺麗で素敵で、また今年もそんな春市くんを‥ううん、今年は隣で、ピンク色でいっぱいの春市くんを見ていたい。
今年の桜は、いつ咲くだろうか。





「お花見?」
「うん。休みがあったら1日だけ‥数時間だけでもどうかな」
「そうだね、数時間だけならいけるかも」

でも、突然どうしたの?と尋ねる春市くんに、私はいつ言おうか並んでいた言葉を吐き出す。

「言うの、遅くなっちゃったけど‥お誕生日おめでとう」
「えっ‥‥知ってたの?」
「もちろんだよ。それで、今日もきっと忙しいだろうから、せっかくなら春になってから一緒にお祝いできないかなって」
「なまえちゃん‥」

春市くんは申し訳なさそうに私の名前を呼んでから、私の手を握る力をほんの少し強くした。それからごめんねと謝るものだから、私も春市くんの手を握る力を強くしてやった。

「私、ピンク色でいっぱいの春市くんも好きだけど、野球を頑張ってる春市くんは、もっと好きなんだ」
「‥‥なまえちゃん」
「だから謝らないで、頑張ってることを負い目に思わないで。私に春市くんを応援させて」

春市くんはわざわざ私のために買ってくれたピンク色の手袋をはめた指で鼻をかきながら、小さくありがとうと言った。それから、頬を染めて、こう言うのだ。

「来年も再来年も、これからずっとこうして祝ってくれる?」
「そ、それって‥」
「え? あっ‥‥!!」

その言葉の示してしまう意味に気付いて2人で顔をピンク色にして黙り込んでいると、少し早い春の暖かな風が、からかうように吹いた。
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