目が覚めて、ゆるりと腕を動かして、隣にあった温もりに手を伸ばす。いない。がばりと起き上がり、急いでその辺に脱ぎ散らかしていたシャツを羽織った。
「あ、起きたの?おはよう」
「おはよう‥」
何勝手に起きてるの、と抗議しようとしたはずの言葉も、味噌汁のいい香りにかき消される。炊きたての白ご飯と焼き鮭、野菜の浅漬けにわかめと豆腐の味噌汁。じいっとメニューを眺めていると、玉子焼きもいるかと訊かれたので、迷わず頷いた。
玉子焼きを運んできた彼女に座らないのかと尋ねられ、立ち尽くしていた自分に気付く。いそいそと椅子に座ると、先程より強く食欲をくすぐられた。
「はい、どうぞーめしあがれ」
「いただきます」
箸を握りしめ、早速手をつけようとして、はたと気がつく。
「何か言いたいことがあったんだけど‥」
「忘れちゃった?」
「うん‥」
もう一度口を閉じて、箸を動かす。黙々と朝食を食べ進めながら、彼女の顔を見つめる。彼女は昨日の夜のことがなかったみたいに、清らかな空気を纏っている。
なんだったっけ。彼女の顔を見ていたら思い出せそうな気がする。気がするけど、喉元で止まったままそれは出てこない。
なんだろう、なんだろうと思いながら食べ進めるうちに、僕も彼女も朝食を食べ終えていた。彼女の口がご馳走様、と動いて、手と手が合わさった。何かが足りないんだ、この光景に。その足りないものを足したくて、この光景を完成させたくて、だから、僕はーーー‥‥‥
「なまえ」
「うん?」
「僕と結婚してください」