言葉の暴力

 
「もし私と入れ替わったら、どうする」


何の意味もないその質問に、隣で一緒にテレビを見ていた栄純はひどく頭を抱えてしまった。




「ぬおおお‥」
「え、そんな真面目な質問じゃなかったんだけど」
「この映画を観た後なのにか?!」
「あんま真面目に観てなかったから‥」

枕を抱えてズビズビ言ってる栄純に、ティッシュを渡したり頭を撫でたりしてる方が楽しかったし、というのは言わないでおいた。
話が逸れそうな気がしたのもあったけれど、それ以上に私が栄純にベタ惚れみたいだし後が面倒くさそうだし、何より恥ずかしい。

「うーん、なんていうかもっと単純にほら、目ー瞑ってー」
「? おう」
「はい、目を開けるとあなたの体は可愛い彼女のなまえちゃんです。はいどうする」
「‥‥‥」
「急にやらしいこと考えないで」
「か、考えてねえ!!!!」

あからさまに顔を赤らめる栄純に、やれやれとため息をつけば、栄純は誤魔化すようにそういう私はどうなのかと訊き返してきた。

「えー、栄純の答えは?」
「言い出しっぺの法則!!」
「こういう時だけそういうこと言う‥」

まあ確かに、言い出しっぺは私だし例文を挙げてもらいたい気持ちは分からなくもない。
私が、栄純になったら、か。栄純になったら。栄純、栄純か‥‥

「なんでそんな微妙そうな顔なんだ!!!」
「思ったより気になることなくて‥あ」
「お?」
「ボール投げてみたい、栄純の腕で」

きょとんとしてる栄純の左肩に、振りかぶった右手をぽすんと乗せた。サウスポーだからか?なんて頭の悪い質問をしてきたので、今度は頭にやんわり振りかぶった。

「ほら、栄純体柔らかくて腕がどうたら言ってたじゃん」
「曖昧だな!」
「そこに食いつかなくていいの!とにかく栄純のかっこいい動きを自分でもやってみた‥」
「!」
「なんでもない忘れて」

ついうっかり口走った褒め言葉を飲み込んでそっぽを向く。‥そっぽを、向いててもわかる。栄純は今、輝かしい笑顔で喜んでいると。
見ていなくても感じるその喜びやら煌めきに耐えかねてちらりと視線を寄越してみると、栄純は待ってましたと言わんばかりに飛びついてきた。

「なまえ、ちゃんと俺のことかっこいいと思ってくれてたんだな〜〜!!」
「あーもうバーカバーカそうだよかっこいいと思ってますよーだ悪い!?」
「痛い痛い!照れ隠しで叩くのやめてください!!」
「照れ隠しじゃないもん栄純犬の躾だしつけ!!」

栄純が犬だったら今も揺れ続けているであろうしっぽを想像して撫でてあげたい衝動に駆られつつも、このまま負けっぱなしではいけないと反撃の言葉を返す。

「私も恥ずかしい思いしたんだから栄純もさっき照れた恥ずかしい想像を言いたまえ」
「え!?」
「照れてたじゃん!変な妄想したんでしょ!ほら白状!!」
「イテッわかった!わかったから引っ張るなって!!」

栄純のほっぺの柔らかさに名残惜しさを感じながら、正座になった栄純のつむじを見下ろして懺悔の言葉を待つ。
照れてる栄純は正直とてつもなく可愛いけれど、今その可愛さに溺れてしまっては、突如始まってしまったこの戦いに勝つことができないのだ。

「あーーさっきのはその‥彼女って改めて言われて、照れたというか‥」
「‥‥‥‥は」
「嬉しくなったというかですね‥‥」
「‥‥‥‥‥‥」


何を言っているんだ、この子は。

少なくとも、私と栄純が付き合い始めてから数年は経っていて。
もう学生でもないし、いつまでも新婚よろしく初々しいカップルのままのはずがないのに。


「あ!!どうせ何を今更って呆れてるん‥‥」


そんなんだから、私は‥


「‥え、あの‥‥なまえ?さん?」
「‥‥‥なに」
「‥‥照れて、イタッ!!痛い痛い叩くなって!!!」


そんなんだからいつまで経っても、栄純にベタ惚れで、勝てないままなんじゃない。
変な話するんじゃなかった、ばか‥。
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