恋愛に年の差など関係ないと、誰かが言っていたのを聞いたことがある。
どれだけ年上を好きになろうが年下を好きになろうが好きだという感情は嘘じゃないし、どれだけ年が離れたカップルが付き合おうが結婚しようが、その点に関しては異論はない。
けれど、関係なくはない。
関係がなかったら私が今ぶち当たっている問題は一体何の因果で、何が関係してるというのだろうか。‥‥そう、私の大好きな後輩・沢村栄純は、どう足掻いたって年下で後輩で、"年の差"があるのだーー‥
「あと1年遅く生まれたかった」
「その話何度も聞いた」
「いや、私早生まれだから数ヶ月でよかったのでは‥?私は沢村栄純バースデーと数ヶ月違うだけで御幸一也と同学年なんかになってしまった‥?」
「おーい、サラッと俺を罵るな〜」
耳にタコが出来るほど何度も聞かされた話に御幸がげんなりしていると、目の前の女生徒、苗字なまえは盛大にため息をついた。
「ため息つきてーのはこっちだっての」
「御幸はまだいいよね〜〜野球部で天使と一緒に野球できんだからさ〜〜」
「お前、沢村のこと天使って呼んでんのかよ‥」
「あの純粋無垢な難攻不落具合が人間とは思えなくて‥」
「あー‥‥」
それは確かに否定できないなと、御幸は慰める気持ちでそっと苗字の肩を叩いた。いっそ笑ってくれと、苗字が自嘲気味に言ったと同時に廊下の方からバタバタと走り迫ってくる音が聞こえてきて、御幸と苗字は顔を上げた。
「なまえ先輩!‥と御幸一也!」
「沢村栄純大天使後輩!!」
「俺センパイな?」
噂をすればなんとやらという言葉どおりか、そこには元気よく挨拶をする沢村がいた。相変わらずのフルネーム呼びは置いておいて、あからさまに機嫌が良くなる苗字に現金なやつめと心の中で罵りながら、御幸は沢村に用件を聞く。
「そうそう!図書委員がなまえ先輩の読みたいって言ってた本が入荷したって言ってやした!貸出は早い者勝ちだそうで!いち早くと!!」
「わ、わざわざ呼びに来てくれたの‥?私のために‥?!」
「偉いでしょう!!俺を褒めていいんですよなまえ先輩!」
「可愛い!大好き!最高!!ありがとうマイエンジェル!!」
「俺もです先輩!!いってらっしゃいませ!!!」
「いってきます後輩!!!」
嵐のように去っていった苗字に呆気にとられながら、御幸は律儀に手を振り続けている沢村に声をかけた。
「結局、お前本当に苗字のこと好きなの?」
「そりゃあもちろん!!」
にっかりと無邪気に元気よく笑った沢村に、御幸は心の中で苗字に合掌する。こりゃ長い戦いになりそうだぞ、なんて忠告する気でいたのだが、
「まあ、なまえ先輩が言ってるのはそういう意味じゃないんでしょうけど!」
「‥‥」
「な!!なんだそのバカにした顔は!」
お互いにすれ違い通りすぎる二人があまりに間抜けで、馬鹿を通り越して寧ろ可哀想に思い始めた御幸は、満足するまでひとしきり爆笑した後、沢村の肩を優しく叩いた。