私のすべてを捧げます
 


 「雷市の様子がおかしい?」


 真田が三島の言葉を繰り返すようにそう呟いた。確認するために雷市のいるであろう教室へ向かった三人だったが、そこに雷市の姿はない。なまえのもとにいないのは真田が教師を出た際に確認済みだ。ならどこに行ったのだろうか。



‥‥そうして散々探し回ったのち、雷市は昼休みが終わる直前に教室へ帰ってきた。

「雷市ィ!!!」
「何処に行ってたんだ!」
「?! え? え‥?」

混乱した様子の雷市に、状況を説明してみると、どうやら雷市は探しものをして歩き回っていたようだ。それで誰とも会わなかったのか、と秋葉が納得していると、雷市は手に何かを握りしめて、小さな声で何かを呟いていた。

「‥大丈夫、できる‥‥」
「‥‥? 雷市‥‥??」

何処か決意めいた表情をした雷市を、真田だけが笑って見ていた。






 「‥! っ、苗字、さん!」
 「轟くん‥?」

 どうかしたの?と心配そうに尋ねるなまえに、雷市は少しだけ時間が欲しい旨をどうにか伝える。委員会で移動中だったらしいなまえは、少しだけならとそれを了承した。

無理を言って引き止めたのだから、早く、早く言わないと。その気持ちが雷市を焦らせたが、不思議と緊張はしていなかった。今手に持っている、この花のおかげだろうか。雷市は持っていた野草の花をなまえに差し出し、すっと息をのんだ。


「好きでひゅ!」


 見事なまでに盛大に噛んだ雷市に、物陰に隠れていた三人は一斉に頭を抱えた。噛んでしまったあまり真っ赤になって震える雷市だったが、目の前で同じくらい震えているなまえの姿に、目を見開いた。

「‥あ、あの‥‥」
「‥‥‥ふ、」
「‥?‥苗字、さ‥」

雷市がおそるおそる声をかけようとしたと同時に、なまえは失笑した。これまでおしとやかな人だという印象が強かった先輩が笑い出し、雷市は一人玉砕を悟る。雷市がしょんぼりしていると、女生徒は先程とは違う優しい笑みで、雷市の方を向いた。

「轟くんのそういうところ、好きだよ」
「えっ」
「お花ありがとう!今度野球してるところ、見に行くね」

そう言ってそのまま立ち去った方角を見つめながら、雷市は呆然と立ち尽くすしかできなかった。わらわらと隠れていた真田達御一行が出てきて、なにやら応援の言葉や慰めの言葉やらを雷市に投げかけてきていたようだったが、雷市の頭の中では彼女に言われた「好き」と言う言葉が反響していた。

 雷市の戦いはこれから、か?

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