みゆきちゃんと帰りのバス
「よく考えたら帰りのバスはお菓子食べなくてもいいな‥」
溶けかけのチョコを急いで食べようとしていた私は、ふと気付いて手を止めた。
「なんで?」
「家帰ってからでも食えるじゃん」
「俺との時間は今だけだぞ〜?」
「結構です」
「ははは」
やけに機嫌が良い御幸をあしらってから、一つ欠伸をこぼす。
「元気だね」
「そうか?」
「放課後も練習ある御幸と違って体力のない私はもう眠いんすわ‥」
「さすが帰宅部」
「うるせー‥‥起こすなよ‥」
御幸に返事し終えると、一段と瞼が重くなる。窓の外の景色が次々の流れて行くのをうっすらと視界の端で見ながら、私はそのまま意識を失った。
▽
「寝て大人しくしてたら可愛いのにな」
子供らしくてよ、と付け加える倉持に、御幸は確かにと笑う。
倒した座席の間から覗き見る倉持を一瞥した御幸は、再び苗字へと視線を戻す。
「ま、寝てなくても可愛いけどな」
「‥‥」
頭を撫でるでもなく、頬に触れるでもなく、御幸は目を細めてじっと苗字を見つめる。そんな御幸に眉をひそめながら、倉持は前々から気になっていたことを尋ねようとした。
「お前よぉ‥」
「ん?」
「‥‥いや、やっぱいいわ」
けれど、その答えがどうであれ自分には関係ないことでありどうでもいいことだと気付き、倉持は再び自分の座席で姿勢を正し、眠り始める。少なくとも倉持の目には、御幸の苗字を見る視線が友達に向けられているものとは違うように感じられていたのだが、それを当人達が知ることがあるのかは、まだ定かではない。
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