みゆきちゃんと校外学習
「肉まんたべよう肉まん」
中華街に足を踏み入れてすぐ、私はそう言った。チェックポイントをいくつか通って目的地に向かう、というのが今回の校外学習の目的のようだ。
校外学習のどのへんが学びにつながるのかは正直分かんないけど、背が伸びても体重が増えても、心はいつまで経っても昔のままなのだから、先生たちの考えなんてわかるはずもない。とりあえず目の前のことを楽しむが勝ちだ。
そう、思っていたのだけど。
「その前に腹減ったから飯食おうぜ」
「ラーメン食おうラーメン」
「腹ヘリ小僧どもめ‥まあいいけど」
そう言ってしまったが運の尽きか、その後店を出てしばらく、この中華街に入ってすぐに見かけた心惹かれる看板と似た雰囲気の店を見つけ、先ほどと同じく「肉まんたべよう肉まん」と指を指す。しかし、
「さっき昼飯食ったばかりだからいいわ」
「帰ったら練習あるしな」
「‥‥嘘だろおまえら」
絶望した。
「いやいやいやなんでじゃあさっき先ラーメン食べた?肉まん食べりゃよかったじゃん」
「さっき腹減ってたからガッツリ食いたかったしよ」
「な」
「こんな時だけ仲良くしやがって貴様ら!!!」
周りを見ろよ、みんな楽しそうに肉まんやらしゅうまいやら食べてるでしょあれが普通なんだよ!喰い歩きをするもんなんだよ普通は!!
そりゃ君達は野球部でうちの野球部がすごくてめちゃくちゃ頑張ってることは風の噂でなんとなく知ってるけども、それとこれとは話が別でしょうよ!!!
「替え玉頼んでたの見てたから余計許しがたい」
「見てたのかよ」
「うるせー!私がトイレ行ってる間に頼みやがって!!」
悪びれる様子もない2人に子供がましく文句を並べ立てるけれど、返事を聞く限りどれも不発のようだ。
「こっちはバスで菓子三昧、中華街で食べ歩きをするためにお母さんのお弁当を断ってきたんだぞ‥くそ‥‥」
「わりーわりー 俺がまた作ってやるから」
「御幸の弁当にそこまでの価値はない‥」
「うわ今めっちゃ傷ついた」
「まあその意見には賛成だな」
そう倉持くんに冷静に賛同されてしまい、私はなんだか怒っていた気持ちまで鎮火してしまった。
「もういい‥一人で食べる‥ちょっとでも楽しみにしてた私がバカだった‥‥」
「え」
目を丸くする御幸と相変わらずの倉持くんを置いて、私はとぼとぼとその店へ進んだ。別に一人で食べたからと言って味が変わるわけじゃないし。1人で食べたって美味しいはずだし。むしろ、あー美味いなーこんな美味いものを食べないなんて損してるなーー!って自慢した方が気分的にもいいはずだし!!!
「おじさん、肉まん1つ‥と、小籠包も1つください」
愛想のいいおじさんが返事をして、手早く包みへと入れ始める。家族でやっているお店らしく、仲睦まじい様子がまた私の傷に塩を塗りたくる気さえしていたら、私の財布を握りしめる手に影が落ちた。
「おっちゃん、やっぱ小籠包2つで」
先ほどより少し笑みが浮かんだ様子のおじさんがまた愛想よく返事をしたのを見てから、ゆっくりと顔をあげる。
「なにしてんの御幸‥」
「何って、食べ歩き?」
渡された包みをさっと受け取ると、御幸は小籠包を一つだけ抜き取った。練習あるから、食べないんじゃなかったの。浮かんだ疑問がそのまま口から言葉となって出ているのをどこか客観的に感じていると、御幸は少しだけ嬉しそうな顔をして、
「苗字ちゃんと食べ歩きするのも悪くないかなって」
「‥‥みゆきちゃんのくせに」
小籠包を口にそのまま放り込む御幸を見て、水に流してやろうと思った。
「あっっっっつ!!!!」
「あははは、ばーかばーか」
ALICE+