みゆきちゃんと名前



「おまえも下の名前で呼んでみれば」

御幸が私のことを名字ではなく名前で呼んで反応を楽しんでいるのがムカつく、と単刀直入に倉持くんに相談してみた。
その時の(あしらわれつつもなんだかんだ最終的に貰った)返答が、これだった。

「それを本人に言うあたり苗字って感じだな」
「一人でムカついてるのも腹立たしくなってきたんだもん」

ははは、と目の前で笑っているのは問題である御幸本人だ。まあ、一人でイライラしてるよりはマシだと、思う。聞いてくれるだけ気が晴れるだろう。愚痴る友達がいないから、という悲しい理由は黙っておいた。

「でもさー私、御幸って好きなんだよね‥」
「え」

目を丸くした御幸の顔を尻目に、ノートとシャーペンを取り出す。

「だから御幸って名字可愛くない?って話」
「‥あー、名字ね!名字がな、うん」
「? なに慌ててんの」
「なんでもねーよ!そんで、だから何だって?」

妙に落ち着きのない御幸は置いておくとして、私は脳内で微笑む少女を思い浮かべる。カリカリと音を立てながら描き上がっていく彼女に、御幸の視線が注がれた。

「みゆきってさ、名字って言うより名前っぽいじゃん」
「おー」
「かわいい女の子って感じするじゃん‥」
「おまえ絵うまいな」
「でしょ。ほにゃららみゆきちゃん、名前だけで顔も性格も良い線の細い美少女の予感しかしない」
「俺は?」
「かたやみゆきかずやはこの有様‥名前というより本人の問題ですね」
「流れるようにdisるなー」

面白くて笑ってるのか面白くなくて笑ってるのかわからないような声で笑う御幸に、内心ため息をつく。みゆきじゃなくてごさちくんとかにした方がいいんじゃないこいつ。

「まあ御幸本人は可愛くないけど、みゆきって名前はかわいいよね」
「まあ否定はしねーけど」
「みゆきちゃんと遊んでくる〜って家出ても普通に女の子だと思われそうだし‥ん?」


そこまで言ってから、妙な感覚になった。


「あれ、私この話前もした?」
「‥‥なんで?」
「いや、急に既視感が‥」


この言葉に、この話。いつかどこかで同じことを口にした気がする。気になる。胸がもやもやする。あと少しで思い出せそうなのに。
そう思って訊ねたのにもかかわらず、当の訊ねられた御幸はどこか嬉しそうに微笑むばかりで。

「そう思うんなら、そうかもな」
「え、ちょ、なに急にニコニコしてんの怖!」

‥気持ち悪いから、ほじくり返すのやめとこ。


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