桃色インナモラータ
ーー日付が変わる数分前、私はスマフォの画面と向き合っていた。
「……なんか、ちがう……」
言いたいことも伝えたいこともたくさんあるはずなのに、それを表す言葉が見つからない。
脚本家としてどうなのか、とは思った。けれど、私の中のキャラクター達は、私が描いているだけで私ではない。動かしているのではなくて、どう動くかを想像して書いているのだ。
……なんて、言い訳がましい言葉はやたらと並べ立てて、本当に書きたいはずの文章は一文たりとも書けていなかった。
「いつもありがとう、とか…? ……ううん、でも、ちょっと母の日みたいだし……」
感謝してもしきれないほど、彼には恩がある。そして、どれだけ言葉にしても足りないほど、とめどなく気持ちは溢れてくる。
けれど、いざそれを言葉にして伝えようとすると、できなかった。
「響也くん……」
あと数分で、響也くんの誕生日だ。
何時間も前から、そんなことわかっていた。
明日も会うと分かっていても、無性に胸がどきどきしていた。どきどきして、緊張して、……こんな時間に、なってしまったのだから。
「私いつも、どうやって本書いてたっけ………」
困ったら、響也くんに相談してたような気がする。響也くんだけじゃなく、カンパニーのみんなに。
けれど、今回ばかりは人に頼っていい問題じゃない。これは、私の気持ちを表したいだけの、私のわがままなのだから。
「私の、気持ち……わたしの、きもちは…………」
ベッドに横になっていた身体を勢いよく起き上がらせ、私は指を動かしトークに書き込んだ。
≪少し電話してもいい?≫
響也くんから送られてきた丸を表すスタンプを見て、思わず顔が緩む。
響也くん、あのね。私、響也くんのことが大好きだよ。響也くんに出会えて、本当に、心からよかったって思ってるの。
「…もしもし、なまえ?」
「響也くん、誕生日おめでとう!…あのね、それから…!」
今すぐ、会いたい。
そんなわがままを、響也くんは俺もなんてはにかみながら叶えてくれる。
ドアを開けたら、飛びついてしまっても、いいかな。待ちきれなくて玄関に移動したら、電話越しの響也くんがまた笑ったような気がした。