眠れる気がしない。外の空気でも吸おうかと考えていると、そっと襖が開いて鮮やかな月明かりが部屋に差し込んだ。

「眠れないんですか?」
「…………あんたか」

月に照らされた黒緑が鈍く光って、また暗くなった。暗闇に慣れぬまま襖が閉められて、思わず手を泳がせる。その手をまるで見えているかのようにしっかりと掴んだかと思うと、そっと握り締めた。

「……なんのつもりだ」
「嫌ですか?」
「………そういう問題じゃない」

否定と受け取ったのか、なまえはそのまま手を握りしめたまま近づいてきた。暗闇に目が慣れてきて、じっとなまえの顔を見つめてみる。…相変わらず、何を考えているか分からない顔をしている。

「……少し、失礼しますね」
「……?! 何を…!」

まるで抱擁でもせんばかりに俺を包み込んで、背中を撫で始める。首筋になまえの髪がさらさらと触れて、くすぐったかった。

「人は心音を聴くと、安心するんですよ」
「……っ、俺、は…」
「元は刀でも、今は人です。どうか私のことを信じてみてください」

信じるもなにも、俺はあんたの命令なら従うというのに。
そう呆れ返って目を瞑った俺を眠たくなったと勘違いしたのか、なまえは俺や抱きしめたままそっと褥に横になった。

仮にも男女であるのにもかかわらず、同じ褥に寝転ぶなどと。どこまでも愚直で、お気楽な頭をしている。
どうにでもなればいいと、俺は審神者と同じように彼女を抱きしめた。

「……っ、おやすみなさい、山姥切国広」
「………………」

なまえの心臓が、これでもかと言うほど早く脈打っている。慣れないことをするから、そんなことになるんだ。これじゃあちっとも眠くなんてなりやしない。少しでも、この能天気な頭をした審神者を信じた俺が馬鹿だったのだろう。…ああでも、この生温いぬくもりは嫌いじゃあない。


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