大将は靡かない。

どんなに褒めようとも、どんなに優しくしようとも。どんなに甘く扇情的な声を耳元で囁こうとも、彼女はいつも袖口で口元を覆いながら小さく笑って、心から言ったはずのその言葉を冗句のようにしてしまうのだ。

「冗談のつもりはなかったんだがな」
「…後生ですから、からかわないでください、薬研さま」

彼女は俺たちに"様"をつけて名を呼ぶ。曰く、主といえど神が相手だと言うことを肝に銘ずるためらしい。

俺たちに人の姿をしている今は人と同んなじだと謳っておきながら、大将が一番俺たちのことを人間扱いしていないのだ。なんと滑稽なことか、俺たち刀は騙されていたのだ!審神者という傲慢な職業の人間に。呼び出したかと思えば戦へ駆り立てる、神を弄ぶただのか弱い少女に。

共に戦陣に立ったことも、傷だらけの身をそっと包み込んで泣いてくれたことも、馬と戯れて笑われたことも、一緒に晩飯を囲んだことも、全部全部、偽りだったのだ!

……なんて、思うやつがいたかはわからない。少なくとも俺たちは…俺は、知っている。

「……な、たいしょ」
「なんでしょうか、薬研さま」
「隣、いいか?」
「…どうぞ」

彼女が酷く臆病で、傷つくのを恐れて俺たちに深入りしないように距離を置いているのを。それなのに寂しがりやで、俺たちと過ごす時が一番幸せそうにしている、一人では生きていけない脆い人間なのだと。

「大将に呼び出されたその時から、俺の命は大将と共にある。朽ち果てるその日まで、俺の時間は大将のもんだ」
「薬研さま……」
「だが、少し我儘を聞いてもらえるなら……少しずつでいいから、俺も大将の時間がほしい」
「………、え、あの」
「駄目か?」
「ちが……っ!…あ、いや、そのっ……わかり、ました…」
「気が向けば心と身体も、な」

にたりと元の内容に話を戻せば、動揺していたからかいつもとは違う、真っ赤に熟れた顔が目に入る。

「……薬研さまの冗談は、心臓に悪いです…」
「大将の前で冗談を言ったことはないぜ?」
「………ずるいです、あなたは」

久々に大将の隣にいられるこの日くらい、
ずるい言葉の三つや四つ、許されたっていいだろう。


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