遠征部隊が帰ってきた。部隊長である清光が、私にお土産やら資源やら小判やらを盛大に差し出す。偉い偉いと撫でてみれば、清光は目を細めて嬉しそうに微笑んだ。
「あ、主ぃ、大和守安定が怪我してんのに自室引きこもったから、手入れしてやって」
「え、安定くんが?」
満足したのか立ち上がった清光が、思い出したかのようにそう言うので、私は思わず清光と同じように立ち上がった。動揺する清光を尻目に、私は急いで安定くんの元へと向かった。
安定くんが私のことをあまり好きではないことくらい、自分でもわかっていた。私のことを主と呼んでいても、きっと彼の中の主は沖田総司さんなのだ。沖田さん以外を、主と認めたくないんだろうと、思う。けれど、さすがに怪我や病気のこととなると放っておけなかった。主と認めてくれなくても、そこだけは彼をこの世に呼び出した身として、譲れないものがあった。
「安定くん、私です、入るよ」
「……?! 主…?」
腕に乱雑に包帯を巻いていると、主の声が聞こえた。神妙そうなその声色に、思わず加州清光の顔を思い出す。あいつめ、ばらしたな。そう思うやいなや戸を開けた主は、僕の腕を見てぎょっとしていた。相変わらず、人の怪我になれない人だ。
「す、すぐに手当てするから、早く手入れ部屋に行こう?」
「これくらいの傷、君にどうこうしてもらわなくても…」
「………お願い、安定くん」
急に色を正してそう言った主の顔は、梃子でも動きそうになかった 。仕方なく手を引かれついて行く。今の僕達、傍から見たら滑稽なんじゃないかな。親鳥が子供を引き連れて歩いてる、ような。そんな風に思って一つため息を吐いた。
無言で僕の手入れを始めて、一時間ほど経った。手入れ道具をしまうと、主はお疲れ様でしたと僕に頭を下げた。
「……こんな面倒臭いこと、よくやってるね、…嫌だとは、思わないの?」
「あ、ごめん、安定くんは嫌だったよね、ごめんね」
「そういう意味じゃ………っ、そうだよ、僕は君に優しくされるのが嫌いだ」
「………うん、ごめん」
そんなに簡単に何度も謝って、やめる気もないくせに。そう口から思わず本音を零せば、主は僕の手をぎゅっと握って、まっすぐ僕の目だけを見た。
「でも、これは私が審神者として安定くんにするべきことだから、これだけは受け入れて欲しい…私のことは、嫌いでもいいから」
「やめてよ…嫌いだとか、関係ないよ、僕の主は」
「沖田さんのことを忘れなくてもいい、私のことを主だなんて思わなくていいから、一人の仲間として見てもらえないかな…!」
「やめてって言ってるだろ!!」
手を振り払って、彼女から目を逸らす。
僕のことを見ないで欲しい。まっすぐに見て、僕の存在を認めないで欲しい。君がそんなだから、僕は、
「………それじゃあ、僕は行くから」
「安定くん、」
早く、早く僕の脳から出ていってくれればいいのに。不機嫌さを表すかのようにどすどすと音を立てて廊下を歩く。苛々する。あの人のことを考えると、沖田くんの青が滲んでしまう。沖田くんの声も表情も忘れて、むざむざと彼女の優しさに溺れてしまう。
僕はまだ忘れたくない。彼女の優しさも、愛情も、信じられないわけじゃあないけれど、それでも僕は、加州清光みたいにやすやすと乗り換えてしまってはいけないのだ。この刃が折れる最期の時まで、彼の、沖田総司の刀でいなくては、彼に選ばれた意味がない。意味がないのに、………きっと僕も、永くは持たない。
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