どこを見回してもバレンタイン一色だった。 店内は桃色で彩られているし、ふと見るとそこら中にチョコレートが陳列されてある。おかげで買いたかったものが分かりづらくなるし、店内に無駄に客が増える。関係のない人間にはいい迷惑だ。俺は諦めてそのまま店を後にした。のが、まずかった。

「あ」
「…! なまえ…」
「やっとみつけたーーーー!!」

なまえは俺を見るなりぱあっと明るくなって、俺の手を握った。その手は今まで冷水にでも浸していたかと疑うくらいに冷たく冷え切っていて、よく見ると鼻もうっすらと赤い。長時間自分を探していたのかもしれないという考えに至って、思わず手に力を込めた。

「冷たい、触るな」
「あっごめんね!嬉しくてつい…」
「それで?一体何の用なんだ」

離された手に思わずむっとしてそう尋ねると、なまえは少し顔を赤くして、鞄をごそごそと漁り始めた。嫌な予感がする。先程まで浮かれた連中に毒を吐いていた自分が、同じ浮かれた出来事に身を置いているのかと思うと、気分が悪くなる。

「まさかとは思うが、チョコレートじゃないだろうな。だとしたら必要ない」
「えっ! ……あの、甘いもの、きらい?」
「あまり得意じゃない。だから結構だ」

店で見たのと同じように桃色で彩られたそれを、俺はそっと押し返した。

「い、一個だけでもだめ?!ほんとにだめ?」
「………いらない。わかったら、早く帰って休め。冷えてるんだろう…」

そう言ってそこから立ち去ろうとした、その時、

「ごめんなさいあとで怒っていいからーー!」
「!?」

叫び声と同時に手のひらが顔面に飛んでくる。口に異物感がある。チョコレート、だろうか。

「危ないだろう…!」
「ごめんね!でもこうでもしないと食べてくれないと思ったから!」

でも好きなのはほんとだよ、だいすきだよ、と繰り返し身振り手振りを交えながら俺に訴えかける。突然ハッとしたかと思うと急に耳まで真っ赤になって、なまえはそのまま走り去って行く。

「………自分勝手な奴だ」

無理矢理口に突っ込まれたチョコレートを咀嚼すると、口の中に甘ったるさだけが広がった。


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